商品・サービスを提供するにあたっては、顧客の理解を深めたうえで戦略を立てる必要があります。市場調査は、マーケティング戦略を立てる際、市場や顧客の調査をすることによって、市場の動向から顧客インサイトを発掘することができます。市場調査で収集した情報を分析することにより、商品の開発や改善に役立ち、事業成長につなげることができます。この記事では、市場調査の種類や市場調査の流れについて詳しくご紹介します。
市場調査とは、企業が商品・サービスのマーケティング活動を行う際に市場の動向や消費者の声を収集し分析することです。市場調査の主な目的は、顧客の声を取り入れることによって「商品・サービスが世の中(市場)にどのような価値を提供できているのか、どのような評価をされているのか」という実態を知ることです。市場や顧客の情報を収集し、ニーズを把握できれば、変化に対して柔軟かつ適切な戦略や商品開発をすることができ、事業の成長につながります。市場調査には、電話やネットを用いたアンケートにより数値面から商品・サービスの認知度や顧客満足度を計る定量調査と、インタビューや行動観察調査などの心理面や潜在意識を探る定性調査があります。顧客がどのような商品・サービスを必要としているかを調査することで、現在提供している商品・サービスは期待にそえているのか、今後新たにリリースしようとしている商品・サービスは果たして市場のニーズにマッチしているのかを調査から認識し、売れる見込みのある商品・サービスの開発や改善に役立てることができます。
市場調査によって、顧客が商品・サービスに求めていることを「数字」や「実際の声」の側面から把握できます。調査の結果をもとに企業側が気づいていなかった顧客インサイト知ることは、商品・サービスの内容やアプローチするターゲット、宣伝手法など企業が提供したい価値と顧客とのコミュニケーション設計にズレが生じることを防止し、成長性のある事業づくりにつなげることができます。
市場調査は、新規開発だけでなく、既存事業のサービス向上にも役立てることができます。実際に商品・サービスを利用した顧客の声を取り入れることで、商品・サービスの改善点や問題点を明確にできます。市場調査の結果を反映できると企業側はより売れる商品の開発につなげることができ、顧客も自分たちが利用している商品・サービスがより求めているものにアップデートされていくことを実感できるため、企業と顧客の双方にメリットが生まれます。場合によっては、新しい顧客ニーズが誕生することもあります。
一度商品・サービスの開発や販売を開始すると開発費や人件費が発生するため、売上が伸びなければ企業としての損失が大きくなります。事前に市場調査を行い、市場の動向やニーズを把握したうえで商品開発や顧客とのコミュニケーション設計ができれば、売れない商品を世の中にリリースしてしまう失敗のリスクを回避できます。新商品・サービスをリリースするにあたっては、競合の商品・サービスが市場でどの程度売れているのか、その理由などについて知ることで、差別化を図ることができます。また、競合が失敗した要因を探ることにより、同じ失敗を繰り返さないよう対策を練ることができます。
市場調査と似た定義でマーケットリサーチがあります。混同されることが多い市場調査とマーケットリサーチですが、厳密にいうと調査のベクトルに違いがあります。市場調査は、「市場・顧客の過去から現状を把握するための調査」で、マーケットリサーチは「市場・顧客の未来予測をするための調査」です。
市場調査は、過去や現状における市場の動向や顧客のニーズを把握することによって、新たな商品・サービスの開発や展開の判断材料、既存商品・サービスの改善に役立てるための調査手法です。それに対してマーケットリサーチは、現在の情報を収集し、分析することで将来的に開発する商品・サービスに役立てるというベクトルの違いがあります。この2つの違いを混在したまま調査を進めてしまうと、調査の目的と調査手法に矛盾が生じ、市場調査の有効性が下がってしまいます。すでに市場がある状況での調査なのか、まだ世の中に出回っていない市場を新たに作るため未来予想図を把握するための調査なのか、目的によって変わってくるので、何のために調査を行うのかをまずは明らかにしたうえで進めていきましょう。
市場調査の手法には多数の種類があります。代表的な調査手法として「定量調査」「定性調査」の 2つを紹介します。
定量調査とは、量や確率といった数値データから調査・分析し、顧客の全体像を把握する際に用いられます。定量調査では、アンケート調査やネットリサーチを利用し、認知度や顧客満足度、リピート率といった指標を算出します。定量調査の場合、企業側が選択肢を用意しているため、調査対象者の負担を軽減し、調査に要する時間も少なく済みます。そのため、一度の調査で大量のデータを収集することができます。
郵送調査は、調査対象者に対して調査票を郵送し、回答を記入をしてもらったうえで返送してもらう手法です。インターネットを使わない層などネットリサーチでは集めにくい幅広い属性の対象者の意見や、居住問わず広範囲に大量な回収が必要な場合に向いています。特に、デバイスへの接触頻度が低い層に対しては、慣れ親しみのある紙で回答を得ることで精度が高い効果を見込めます。
電話調査は、調査対象者に電話を通じて調査を行う手法です。電話を用いることで生の声が即時に得ることができるため、比較的短期間で調査を完了することができます。郵送調査と同様、居住地に左右されず広範囲に調査できます。世論調査や内閣支持率など国政に関する調査でも利用される調査手法です。また、調査会社を利用すると企業名を伏せて調査ができるので、顧客の本音をより探ることができます。
街頭調査とは、調査員が街頭に出て調査対象者を選定し、調査する手法です。調査するエリアを限定できるため、地域や街を限定して調査を行いたい場合に用いられます。街頭調査のでは、その日、偶然街を歩いている一般人の中から調査目的に応じて性別や年齢層を予想して対象者を選んで調査できます。郵送調査や、電話調査と比較すると、郵送費や通信費がないので、費用が抑えられる点もメリットです。
ネットリサーチは、調査対象者にインターネットを通じて、アンケートに回答してもらう調査手法です。地域を限定せず大規模な調査が可能なため、大量の回答数を得ることができます。ネットリサーチを利用すれば、紙の調査票を郵送したり、電話や街頭で回収した情報をデータを入力したりする必要がなくなるため、効率的に調査を行うことができます。また、調査にかかる人件費も最小限に抑えられ、コスト削減という点でもメリットがあります。インターネットの利用が全世代で増えていることからも回答者の年齢層の偏りも緩和しており、PCのほか、スマートフォンからも回答ができるため利便性が向上している点においてもネットリサーチは有効な調査手法だといえます。
会場テスト(CLT:セントラルロケーションテスト)は、あらかじめ設定した日程・アンケート会場に調査対象者を集め、その場で回答記入やインタビューで回答を得る調査手法です。直接回答者の表情が見えるため、回答内容や言葉だけでは把握できない要素から顧客インサイトを見つけることができます。試飲・試食調査や家電の使い勝手を確認したい場合などに用いられます。
ホームユーステスト(HUT)は、調査対象者の自宅に商品のサンプルを郵送して一定期間実際に商品を利用してもらい、感想や意見を得る調査手法です。生活の中で実際に利用してもらった対象者のリアルな声をヒアリングできるので、商品の開発や改良に役立ちます。
ソーシャルリスニングは、FacebookやTwitterといったソーシャルメディアや自社メディア上の顧客の声をもとにデータ分析を行う調査手法です。SNSが急速に発達し、身近な存在になったことにより、SNS上でのトレンドが、市場を動かす力を持つようになりました。消費者自身がソーシャルコミュニティを活用し、気軽に情報発信を行うようになった現代において、SNSの活用やWeb上に寄せられている意見を反映することが求められています。そのため、リアルタイムに更新されるSNS上の市場動向やトレンドを把握していくことが重要になっています。
定性調査とは、言動や感情、表情など、数値では表すことのできない要素を調査する手法です。調査対象者の心理的な意見や感想を認識したい際に効果的です。近年、顧客のニーズが多様化しており、定性調査から見える顧客インサイトの重要性が高まっています。「なぜかこの商品を購入したいと思ったのか」といった動機づけや、顧客自身も気づいていない潜在的な欲求などを把握できます。企業の想定していたものとは違う意見やニーズを発見できる可能性があり、商品企画や開発の鍵となります。
インタビュアーと調査対象者が1対1で対面し行うインタビュー調査です。1対1で回答者の本音を深堀りすることができるため、潜在的な顧客インサイトを探るために最適な調査手法です。リアルタイムに質問と回答のキャッチボールが行われるため、状況に応じて柔軟に質問内容を変更できることが大きなメリットとなります。ディスカッションを通じた回答を得られるため、情報量が多いことも特徴です。対面でインタビューを実施するほか、電話やオンラインをつないで調査することも可能です。
モデレーター(進行役)と複数の調査対象者が、ディスカッション形式で座談会を進めていくインタビュー調査です。この調査手法では、設定したテーマを複数人で議論することでより意見を掘り下げていくことが可能です。他者の発言に触発されることによって、各々の考えが変化し、さまざまな角度から意見を引き出すことができます。
行動観察調査は、調査対象者の日常を観察し、対象者と同じ環境に身を置きながら話を聞く調査手法です。自宅での行動やレストランやスーパーなど外出している際の行動など行動調査の範囲は調査目的によってさまざまです。アンケートやインタビューは基本的に聞かれたら答えるという受け身の姿勢なので、言語化できない顧客インサイトは出てこないという側面を持っています。そのため、すでに顕在化している意見や意識している行動ではなく、日常の中の行動や振る舞いを誘発するものは何かを捉えることが重要です。行動観察調査では、顧客の自然体の行動を観察することができ、意思決定までの過程を覗くこともできるので、これまで想定していなかった新しい切り口からの商品開発ができる可能性があります。その市場も成熟期となった今、市場には類似商品が数多く並び、顧客にとって違いを見出せないといってもよいほど品質の高い商品・サービスが展開されています。このような状況で顧客に選ばれるために、数値やインタビューなどの調査だけではなく、行動観察により顧客インサイトをより発掘することが注目されています。
訪問観察調査は、商品・サービスを実際に使用している顧客の自宅に訪問し、調査する手法です。商品を購入する意思決定に至った過程だけでなく、購入後の使用状況を把握することができます。企業側が想定している用途とはまた違ったアイディアが顧客の使用手法から発見できるチャンスにつながる場合もあります。
MROC(エムロック)は、一般的なSNSのようなオープンなソーシャルコミュニティと違い、調査を目的としたクローズドなコミュニティを使用し、調査テーマに合う対象者だけを集めて登録を促がし、一定期間で調査を行う手法です。調査では、クローズドなコミュニティの中で、ディスカッションやアンケート、掲示板への書き込みなどさまざまな手法でコミュニケーションをとります。コミュニティの参加メンバーである調査対象者は、PCやスマートフォンなどのデバイスから自由にいつでも投稿ができます。コミュニティの開設期間は2週間〜1年程度などさまざまです。一度きりのインタビューとは違い、期間内で繰り返しコミュニケーションをとれるので、情報量が非常に多く、複数のトピックについて長期間意見を収集できます。
市場調査を行うにあたり、まずは社内で課題となっている要素を洗い出し、調査の目的を明確にします。商品・サービスの課題はどのような点か、どのような情報を引き出せれば役立ちそうかといった点からできる限り具体的に課題と目的を考えてみましょう。
課題と目的を明確にできたら、次にそのような手法を用いて市場調査を実施するかを計画します。そのような手法で市場調査を行えば、目的にたどり着くことができるのかを念頭におきます。たとえばYes・Noや5段階評価で回答できるようなアンケートで得られる内容は比較的容易に、大量のデータを収集することが可能です。しかし、数値データだけではなく、より顧客の声を反映したいということであれば、インタビューや行動観察を用いて顧客インサイトを探る必要があります。調査期間やサンプル数、調査にかかる費用も加味して、適切な調査手法を選定することが大切です。
1~2に基づいて、市場調査を実施します。調査対象者は、年齢層や性別、エリアといった属性と商品・サービスに対する認知や購入歴、利用頻度といった履歴を組み合わせて選定します。設定している期間内に目標サンプル数を収集できるよう計画的に調査を実施していきます。
調査で得られたデータの集計・分析を行います。必要に応じてレポートの作成もします。初めに設定した課題や調査目的を踏まえ、分析を進めていきます。
市場調査の分析が完了したあとは、調査結果に基づき、今後のアクションを定めます。具体的には、ターゲットの変更や商品の改良など会社としての意思決定を行います。
市場調査を行うタイミングや目的についていくつか例を紹介します。
・新商品・サービスの開発
新たな商品・サービスの開発を計画している場合であれば、市場全体の動向や顧客のニーズを把握し、商品開発のアイディアやコンセプトに活かすことが市場調査の目的にあげられます。市場調査をもとに新商品を開発し成功した例として、近年で目覚ましいヒット商品となったのが、第3のビールです。昨今のアルコール市場は、各社の商品がテレビCMや有名人を起用したプロモーションをしていることを見るようにマーケティング激戦区といえます。他商品との差別化を行い、消費者を引き付ける新商品が次々と発売されています。成功の秘訣は、第3のビールに顧客が求める価値を的確にとらえた商品コンセプトと、それを確かに再現する商品クオリティの両立にあります。消費者が求めている価値とは何か、その理解を深めるために市場調査でインタビューを繰り返し実施し、そこで得たアイディアや仮説があっているのか、需要があるのかを定量調査で確認していくという手法で成功を収めています。
・既存商品・サービスの改良
市場調査は、新規事業だけではなく、既存商品・サービスの改良や評価を得る際にも役立てられます。どんなに人気のあるブランドであっても、顧客ニーズの変化などによって勢いに陰りが出てきます。たとえば、発売以来人気を集めてきた炭酸飲料を販売する企業では、2000年代に消費者の健康ブームが高まった影響で、炭酸飲料離れが起こり、売り上げが大幅に減少したことがありました。そこで、炭酸飲料を販売する同社では消費者にどのようなブランドイメージを持たれているのかを知るため定性調査を行った結果、「古臭い」という時代遅れのイメージを持たれていることがわかりました。「古臭い」というイメージを変えるために「安心・安全な日本の伝統的な飲み物」として商品開発やコンセプトに顧客インサイトを取り入れ改良を行い、リブランディングを行いました。その結果、発売当時の人気を超える売上となり、V字回復を遂げることができました。
・コミュニケーション戦略の適正化
市場調査は、消費者とのコミュニケーション戦略がターゲットに適切に届けることが目的の際にも有効です。インターネットの進歩や技術向上により、消費者自身が自分に必要な商品・サービスの情報を収集できるようになり、SNSなど個人が簡単に情報を発信できるようになりました。オープン化されたソーシャルコミュニティで発信される情報をもとに、消費者の意見を収集・分析することで、コミュニケーション設計のヒントにつながる可能性があります。企業と消費者をつなぐコミュニケーション戦略がお互いにとって良いものであれば、そこから共感の輪が広がり、売上にも好影響を与えることにつながります。
どのような事業においても企業が提供したい商品・サービスと消費者が欲しいと思う商品・サービスが結びつくことで初めて世の中に必要とされるものが生まれます。市場調査では、需要と供給のバランスを考えるときに有効であり、マーケティングの成果を左右する重要なプロセスです。市場調査を適切な手法で実施し、顧客に寄り添った商品・サービスの提供を目指しましょう。
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