企業がマーケティング戦略を展開していく上では、様々なフレームワークを活用し、分析を実施します。そのうちの1つが「STP分析」です。この記事では、STP分析の基本について解説し、メリットや注意点、成功事例を紹介します。
STP分析とは、「Segmentation/セグメンテーション」「Targeting/ターゲティング」「Positioning/ポジショニング」の3つの頭文字を取ったものでマーケティング戦略の中で活用されます。マーケティング論で知られるフィリップ・コトラーが提唱したフレームワークで、業界問わず活用することができます。
マーケティング戦略の中でSTP分析を行う際に意識したいポイントは「顧客目線」を持つことです。ターゲットとする市場や顧客を絞り込み、販売する商品・サービスから自社の立ち位置を把握して優位性を明確にすることは必要不可欠な要素です。なぜなら、自社を取り巻く環境を理解してどのような立ち位置を取るかによって、その後のマーケティング戦略や企業の利益に大きな影響を及ぼすからです。顧客の行動やニーズを俯瞰的に捉え事業展開を行うことで、STP分析の有効性を高めます。
STP分析の目的は、ターゲットとする顧客や市場を絞り込み、自社の商品・サービスを適切なターゲットへ効率的に売り出す戦略を見つけることです。市場の全体像やターゲットとする市場、競合他社との関係性を把握できるため、どのようなマーケティング戦略を展開すればよいのかが把握しやすくなります。
STP分析は、市場において自社の独自性や強みを明確に打ち出し、どのような方法で顧客のニーズに応えていくかを模索することができます。ビジネスにおいて顧客に自社のサービスを選んでいただくために、どのような便益を提供できるのか、競合に負けないための戦略を考案し、スキームを構築する必要があります。そのためには、第一に競合他社がどのような商品・サービスをどの市場において提供しているかを知る必要性があります。
STP分析を通じて競合他社の戦略や商品・サービスを知るきっかけとなり、差別化を図るべきポイントが明確になります。顧客視点での優位性を発揮し、自社が提供する便益が顧客に対して重要な役割を果たすことで、ターゲット層や市場に対してブランドが浸透されます。そして、持続的な事業成長をし続けられる可能性が飛躍的に高まります。
セグメンテーションでは、属性やニーズごとに共通する点を見つけ出し、分類していきます。このフェーズでは、どの範囲までターゲットとする顧客を細分化すべきか、自社の独自性や強みが活かせる市場はどこかなどを検討します。プロダクト先行の時代には、ターゲットを絞ることなく商品・サービスを開発し、幅広い層に向けたプロモーションを行うことで売れることが大半でした。しかし、市場が成熟した現代において、顧客の行動や価値観、情報収集の手段は多様化しています。そのため、万人向けを狙いあらゆる層にアプローチをするだけでは、結果的に支持されない商品・サービスに陥ってしまいます。効果的に販売していくためには、より細分化した分析を行い、狙うべき顧客層を絞り込む必要があります。
セグメンテーションでは一般的に以下の4つの指標を設定します。
・デモグラフィック/人口統計的変数(年齢、性別、家族構成、職業)
年齢や性別、年収や職業、家族構成やライフサイクルなど顧客の基本的な属性情報をもとに分類します。人口統計に関する資料は、公的機関の統計や企業の独自調査によって、一般的に公開されているものを活用できます。
・ジオグラフィック/地理的変数(地域、人口密度、住まい、文化、行動範囲)
地理や文化・慣習の違い、国や地域、気候などを切り口に分類をします。たとえば、衣服や冷暖房器具は生活習慣や気候の要素によって消費者の行動に差が出る場合に有効です。
・サイコグラフィック/心理的変数(ライフスタイル、価値観、パーソナリティ、購買動機)
価値観やパーソナリティなど人の感性に関わる部分をもとに分類するものです。デジタルの発達によってSNSやECサイトなどから顧客データを収集しやすくなったため、精度が高まっていると言われています。
・ビヘイビアル/行動変数(購買活動、購買心理、購買契機)
日常の行動パターンや関心の有無、利用頻度などから分類をします。行動変数を用いることにより、まだ商品までたどり着いていない見込み顧客と、関心があり商品をチェックしてきているが購入に至っていない見込み顧客を2つのパターンに区分して、アプローチ方法を変えるなどセグメントごとに具体的な施策を実行できます。
ターゲティングでは、細分化した市場や顧客の中で、どのセグメントを自社が狙う市場とするかを明確にしていきます。自社商品・サービスのブランドコンセプトや、価格帯にあったターゲットを明確にすることで効果的なプロモーション戦略を立てることができます。
ターゲティングには以下の手法を活用します。
・集中型マーケティング
特定のセグメントにを絞り込んでマーケティングを行う手法です。広範囲への訴求はできませんが、特定の市場で高いシェアを獲得できる可能性があります。また、市場を絞り込むことで特定の顧客に集中してリソースを費やせるため、開発費や宣伝費を抑えることが期待できます。
・差別型マーケティング
セグメンテーションで細分化した複数の市場に、異なる商品・サービスを供給するマーケティング手法です。たとえば、料金体系を複数設定し、料金体系によって機能のランクが異なる商品を販売することが挙げられます。
・無差別型マーケティング
細分化したセグメントを無視して、商品・サービスを供給するマーケティング手法です。この手法は幅広い顧客に働きかけることになるので、資金力のある企業に向いています。しかし、顧客の行動変容や価値観が多様化している現代においては、リスクが高い可能性がありますので、見極めが必要です。
次にターゲティングを行う際に役立つ「6R」というフレームワークを活用します。
6Rとは、STP分析を行う際に利用する6つの指標のことを意味します。
・有効な市場規模(Realistic Scale)
ターゲティングにあたっては、市場の規模を把握する必要があります。参入する市場の規模は、自社の事業が成り立つ十分な規模かどうかを検討します。市場の動向をしっかり把握できれば、適切な価格設定や販売数量を予測することができます。
・市場の成長性(Rate of Growth)
ターゲティングによって決定する市場は、大きいから良いというものではありません。分析を実施した時点では、規模が小さくても、今後急激な成長をして売上が伸びていくかもしれません。したがって、市場の成長性を見据えて参入するかが長く事業をを続ける上で重要になります。反対に、すで成熟している市場では今後衰退していく可能性があるので、参入には慎重になるべきです。できる限り将来性を見込める市場を選びましょう。
・顧客の優先順位(Rank)
顧客にとって興味関心が高い商品・サービスなのかどうかを判断します。自社の独立性や強みをより活かせる市場や、広告やSNSの波及効果が期待できる市場は優先順位が高くなります。
・到達可能性(Reach)
商品・サービスや宣伝広告をターゲットの顧客まで届けることかできるかという指標です。どんなに魅力的な商品・サービスでも、物理的な理由などで手元に届かなければ現実的ではありません。
・競合状況(Rival)
参入する市場は、競合が少ないブルーオーシャンであることが理想です。競合他社が市場内ですでに大きなシェアを占めている場合は、市場の魅力は低いといえます。余白のある市場であれば、大きなシェアを獲得する可能性も大きくなります。その場合、自社がその市場のパイオニアとして地位を確立できるかもしれません。
・測定可能性(Response)
広告などのアプローチに対して、実際にどのくらい感応や効果があったのか測定して具体的に数値化できるかどうかも重要です。PDCAサイクルをまわすことができれば、マーケティング活動のアップデートにもつながります。
ポジショニングとは、ターゲティングで選定した市場の動向や競合の調査を行い、自社の立ち位置を把握することです。競合他社の商品・サービスがどのような機能を持っているのか、価格帯はどのくらいかといった内容を調査し、自社の商品・サービスと比較します。その上で、どのような優位性を見出せるかを検討します。
・ポジショニングマップの活用
ポジショニングを検討する際に活用するフレームワークとして、ポジショニングマップがあります。ポジショニングマップを活用できれば、市場を顧客視点で見た際に、自社の商品・サービスがどのような立ち位置なのかを客観的に可視化することができます。
ポジショニングマップは以下の手順で作成します。
1.ターゲット層のKBF購買決定要因を洗い出す
まずは、ターゲット層のKBFとなりうる要素を洗い出します。これは機能や価格帯といった顧客が商品・サービスを選ぶ決め手となる要因のことを指します。ポジショニングマップを作る際は、まず商品・サービスに関するKBFをなるべく多く抽出することが大切です。
2.競合他社製品と比較
次にターゲット層のKBFを競合他社の製品と比較していきます。ターゲット層のKBFを一つずつ見ていくことで自社商品がどのような立ち位置にいるかが明確になってきます。ポジショニングマップを作るための軸には優位性が多い部分を選ぶようにします。たとえば、デザイン性に優れている点が自社商品の他社商品に対する優位性となる場合、これを軸に、ポジショニングマップを作っていきます。
3.軸の選定する
ポジショニングマップの軸となる要素が決まったので、次は、実際に書き込みをします。軸の選定にあたっては、優位性が多い要素を設定します。軸をもとに、自社を含めた市場の商品・サービスを配置していきます。価格帯や機能の指標は客観的に捉えやすい要素ですが、デザイン性は主観が入りやすい要素なので、市場の動向をキャッチアップしながらマップを作りましょう。
細かくニーズを把握できることで、どのような商品・サービスを開発し提供するべきか、どの層に広告を打つべきかを絞り込めます。企業が経済活動をする上で、無駄なものを省き、コストを押さえながら利益を上げることにつながります。
分析過程を通して、顧客ニーズやペルソナ、自社の立ち位置を明らかにでき、自ずと自社商品・サービスの独自性や強みがわかります。そして、ターゲット層に刺さるマーケティング戦略を検討できるようになります。
新たに市場に参入するときは、できる限り競争が少ない市場を選び事業を展開したいというのが本望ですが、現代においてほとんどの市場は成熟しており、競争は激化しています。こうした時代の中でも事業を成功させるためには、自社の勝ち筋を見つけ、的確なマーケティング戦略を実行する必要があります。STP分析では競合の商品・サービスの調査や位置関係が把握できるので勝ち筋の要素を見つけ出すことが可能になります。
セグメント、ターゲット、ポジショニングの3要素は相互作用します。それぞれの要素は連携しているため、単体に考えてしまうと、結果的に矛盾した結果になり、効果が発揮できなくなってしまいます。たとえば、ターゲットを学生に置いたあとに、ポジショニングで高価格な設定をしてしまうと、コミュニケーション戦略にブレが生じてしまいます。3つの要素を一貫性のあるものにして、理論に矛盾がないか確認する必要があります。
自社商品・サービスがどんなに魅力的だったとしても、顧客のニーズを捉えていなければ売上は伸びません。分析には、Web広告の効果検証や顧客の購買履歴などのデータを見極めの材料として活用しましょう。
STP分析を行う際には必ずしもセグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングの順番で行う必要はありません。状況に応じて考えやすい要素から始めましょう。たとえば、自社の強みから分析をし、そのあとでターゲットとする市場を検討しても構いません。分析の見直しや軌道修正を行う際は、STPそれぞれを同時に検討することもあります。
ファストファッションを展開する大手アパレル企業のユニクロは、セグメンテーションによって成功を収めています。ファッション業界では、変わり続ける流行に応じて、細分化するセグメンテーションを重ねていくことが習わしとされてきました。しかし、同社は細分化するという業界の慣習を逆手にとり、「カジュアルとフォーマル」「トレンドとベーシック」というシンプルな軸でセグメンテーションを再定義しました。シンプルに定義されたセグメンテーションで生産する商品を限定しました。ナショナルブランドの衣料品の小売業だったファーストリテイリングは、自社の強みであるSPA(製造型小売業)への方向転換を推進していました。消費者のニーズに合わせて、企画から製造、販売まですべてを自社で行うことが可能なので、生産を柔軟に調整できるSPA利点を活かす戦略を取りました。色とサイズのバリエーションを豊富に展開した結果、ヒートテックやフリース、ウルトラライトダウンなど世代に限らず幅広い層に支持される人気商品が生まれました。
ターゲティングで成功した事例のひとつとして、スターバックスをご紹介します。
同社は「大都市圏に住んでいる高所得の会社員」をターゲットとしています。それに合わせた戦略として、セルフカフェなら200円程度で飲めるコーヒーを500~600円とし、高単価の設定をしています。上質な美味しいコーヒーの提供のほかにも行き届いたサービスやおしゃれで上質な空間という付加価値をつけ、コアなファンが増えていきました。また、コーヒーを好まない顧客に向けて、季節ごとにメニューが入れ替わる「フラペチーノ」や、フードメニューを開発し、商品のバリエーション拡大に注力しました。スターバックスは日本国内においてブランディングに成功した結果、ターゲットとしていた会社員だけでなく、次第に若年層も足を運ぶカフェへと変化していき、カフェ業界の中でも群を抜く存在となりました。
生命保険会社のライフネット生命は、インターネット専業の保険会社というポジションを築いて成功を収めた企業です。創業理念の1つが、保険料を安く提供することであり、手頃な保険料であることから人気を集めてきました。インターネット専業が成功した要因は、保険に対する消費者のネガティブなイメージが大きく関係しています。生命保険会社といえば、オフィスに営業が訪れて保険を直接売りにくるイメージが強いように、営業による販売活動が主流でした。同社ではそのような労働集約型の営業スタイルを脱却し、営業を雇わない分商品価格を下げること、保険の特約を廃止し、不明瞭な保険の料金設定に対する消費者の不安を取り除くこと、手数料を公開することの3つの軸を戦略として実行しました。同社は思い切った戦略によって、保険に対するネガティブ要素を丁寧に取り除くことに成功し、消費者からの信頼を勝ち取りました。また、営業を持たないことで人件費を削減し、消費者に還元しました。その結果、他社よりもお得なイメージを醸成することができ、保険業界の中でも突出した企業となったのです。この戦略が優れているもう一つの点は、競合他社が同社の戦略を真似しにくいということです。実際、同社の戦略を他社がやろうとしても、既存の営業人材を大量に解雇することは困難であり、特約という収入源をなくすと利益が激減してしまいます。競合が避けていることを、徹底的に貫いた結果、業界内で独自のポジションを確立することができました。
STP分析では、顧客のニーズを事前に把握し、自社の強みを引き出すことで、競合他社との差別化を図ることができます。新しい事業を始める際はもちろん、既存事業の分析を改めて実施することによって、新たな勝ち筋が見えてくる可能性があります。マーケティング戦略全般に言えることですが、一度分析をした後も定期的に見直しをして、情報をアップデートすることが大切です。
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