デジタル化が急速に加速している昨今、SNSやWEB広告、WEBメディアなど、インターネットを駆使したマーケティング手法は多様化の一途を辿っています。
自社に合ったベストな戦術は何なのかと悩んでいる担当者の方も多いのではないでしょうか?
また、マーケティング手法の多様化に伴い、「マーケティング戦略」という言葉がいつの間にか「どのようにサービスを知ってもらうか?」
という「広告戦略・販促戦略」の狭い文脈で使われる機会が増え、最も重要視するべき「本質的なマーケティング戦略」に関する視点が
すっぽり抜け落ちてしまうという現象も同様に増えてしまいました。
「マーケティング」とは本来「市場に価値を創造する全ての仕事」を意味します。
・新規事業を立ち上げる時
・既存事業が頭打ちになった時
・大きく事業転換をしたい時
多様な「戦術」を駆使できる今の時代だからこそ、今一度「マーケティング戦略」とは何なのかを定義し直す必要があるのではないでしょうか?
「狭義のマーケティング」とは一般的に「広告・販促プロモーション」を意味します。
デジタルのマーケティング担当者の場合、SNSを通じた販促活動や、運用型広告の最適化、SEOを駆使した検索エンジンの強化などがイメージしやすいのではないでしょうか?
広告・販促プロモーションにおけるPDCAは事業の成長に確かに重要です。
しかし、事業インパクトを出していく観点から考えた際にCPC(クリック単価)が数十円下げられた事やCTR(クリック率)が1%向上することが企業のマーケティング活動、「市場に価値を創造する」というマーケティングの定義から考えると、どの程度企業にもたらす影響があるのかという点について改めて着目する必要があるかと思います。
前提としてお伝えは致しますが、決してデジタルを活用したマーケティング手法を問題視しているわけではありません。
100%を200%にできる可能性がある事よりも100%を101%にする所に比重を置きすぎる事に警笛を鳴らしたいと思います。
解決すべき課題は「狭義のマーケティング課題」ではない可能性も充分に考慮し、マーケティング(経営)判断をしていく事が重要です。
一見、当たり前のような話に思えますが、ここが意外と大きな落とし穴になっていて苦しんでいる企業がとても多いので、この点について以下の章で解説します。
「狭義のマーケティング」手法は世の中に掃いて捨てるほど存在しており、日々トレンドによって移り変わっていきます。販促プロモーションに活用できる身近なツールは上げればきりがなく(google、yahoo、facebook、amazon、twitter、LINE、youtube、clubhouse、、、)また、我々の目にも非常に止まりやすいですよね。
では、狭義のマーケティング戦略設計に没入してしまうと、どんな弊害があるのでしょうか?
弊害を2つ紹介いたします。
手法が多様化するのは一見便利ですし、自社のターゲットに合わせて販促プロモーションをいかようにも打てるという点では企業にとっては非常に大きなメリットです。
しかし、同時にそこが大きなデメリットでもあります。なぜなら、売上が停滞した際の課題を「販促プロモーション」のみに見出してしまう傾向が高くなるからです。
デジタルマーケティングの場合はそれが尚更顕著に判断を鈍らせる場合があります。
デジタルマーケティングが急速にこれだけ成長した背景には数字で状況を追えるという、リアルタイムによるPDCAが可能な点です。しかし、それゆえに数字で直ぐに見える近眼視的な所にだけ力点をおいて改善を図ろうとしてしまう場合が往々にして存在します。
「他の媒体を使えば、、、」「検索広告のタイトルを変えたら、、、」「広告の投稿時間を変えたら、、、」など、その選択肢の中で解決策を探してしまう傾向が高くなります。販促プロモーションにおいて仮説検証の繰り返しは必須ですが、そこから抜け出せなくなり事業が衰退してしまっては本末転倒なので、早めに手を打たなければなりません。
様々な手法が増える度に販促プロモーションのニーズが新たに発生するため、広告代理店などの支援企業は近年瞬く間に増加していきました。
しかし、手法論が先行しすぎた事もあり、自社プロダクトや取り扱いメディアセールスが中心の「広告販売(設定)屋」が多くなりすぎてしまいました。
この記事を読んでくださっているご担当者の方で広告代理店から上記同様の営業を受けられる方は多くいるかと思います。
以下の章で詳しく解説しますが、決して広告代理店を活用することが悪いわけではなく、「広告代理店は広告・販促プロモーションを得意としており、広義のマーケティング支援会社にはなり得ない」という点を留意すべきであるということがお伝えしたいポイントです。
広義のマーケティングに課題がある状態で、狭義のマーケティングで試行錯誤を繰り返すことは事業に与えるインパクトから考えても合理的ではありません。
広告代理店をマーケティング会社だと誤認しているケースをよく目にします。
これは「マーケティング」=「広告・販促」
すなわち「マーケティング外注」=「広告代理店」
という非常にシンプルな認識の誤りによって引き起こされます。マーケティングを狭義のマーケティングで捉えてしまっているよくあるパターンです。
弊社も広告代理事業を立ち上げて10年以上になるので、同業界についての事情はよく分かります。広告代理店は広告や販促プロモーションを商品としているため、もっと根本にあるマーケティング課題に(認識していたとしても)言及しない傾向があります。
広告を露出しない期間などは広告予算が取れなくなり自社の売上を下げかねないからです。
しかし、広告代理店に相談をする企業の多くが、「自社の顧客はどんな顧客なのか」「戦う市場を誤っていないか」「需要に対して適切なサービスを提供できているか」など広告手法以前の根本的なマーケティング戦略の(事業)課題を抱えているケースがほとんどです。
・広告代理店を数社活用してきたが数字が伸び悩んでいる
・次の打ち手に悩んでいる
というような場合、まずは現状の「マーケティング課題」の認識を改めて吟味して頂ければと思います。
これまでの章で、
狭義のマーケティング=「販促プロモーション」
広義のマーケティング=「市場に価値を創造する全ての仕事」
であり、マーケティング=販促プロモーションではない、販促プロモーションばかりに囚われるべきではないということをお伝えしてきました。
では、今多くの企業に求められている本質的なマーケティング戦略とはどのようなマーケティング戦略を指すのでしょうか?
それは「勝ち続けられるスキームを構築し、勝ち続けられる組織を会社全体で作り上げていく」ための戦略だと我々は考えます。
変化の激しい時代だからこそ基本に立ち返り、明確な勝ち筋を作り上げていく戦略設計に経営資源を費やすべきです。
次章で戦略設計の流れを確認する前に、本章で現代の時代背景とポイントを整理しておきましょう。
周知の通り、日本の人口は減少の一途を辿っています。
「生産年齢人口」と「国内マーケット」が同時に縮小していくため、「労働生産性の向上」と「本質的なマーケティング戦略」が長期的な経営には必要不可欠なポイントになります。
より少ない労力で最大のパフォーマンスを発揮していくためには、生産性を高めていく以外に方法はありません。
例)
「労働集約」→「知識集約」
「属人営業」→「営業の仕組み化」
「非効率なアウトバウンド」→「インバウンド」
「目先だけの業務」→「長期的な資産」
…etc
足元の改善も欠かせないポイントですが、長期的な資産を生成していくため仕組み構築も同時に推し進めていく必要があります。
今や一般企業だけでなく、町の飲食店や近所の小売店までもがDX化を迫られています。
アプリを通じて料理を自宅に配送してくれたり、コンビニの商品まで代わりに買ってきてくれたりと、コロナ禍も相まってDX推進は急速に推し進められました。
人々がオンラインでのコミュニケーションを求める流れは今後も加速していくことが予想される為、需要に合わせて形態を整える必要があります。
「まずは商品・サービスの開発を行う」など明確な戦略を立てる前にプロダクトの生成に着手してしまうケースがとても多いです。
しかし、「明確な勝ち筋を立ててから開発に着手する」が本来の正しい順序です。
プロダクトアウト(作った物を売る)ではなくマーケットイン(売れる物を作る)の観点で事業開発に着手し、受注・契約から逆算して「何にどのくらいのコストをかければ正しく売れるのか」スキームの構築をしてから走り出すようにしましょう。
勝てる戦略を設計したにも関わらず業績を伸ばすことができない最も大きな要因が、「戦略を実行できる組織態勢を整えられていない」です。
本来、戦略を練るよりも実行する【やりきる】ことの方が100倍難しいのですが、勝てる戦略さえあれば成果が出ると勘違いしてしまい、準備不足のままマーケティングコンサルに知見を仰ぐというケースが非常に多く見受けられます。
「戦略は提供されたが決裁者の許諾が取れない」
「実行するためのリソースが足りていない」
「社員のパフォーマンスを100%引き出せる環境が整っていない」
など理由は多岐に渡りますが、「勝てる戦略を得る」と同時に「戦略を実行できる組織である」必要があります。
本章では戦略設計における基本的な順序、留意すべきことをまとめていきます。
マーケティング=「市場に価値を創造する全ての仕事」と広義で捉えた場合、以下の市場調査~ファイナンスまで全てがマーケティングであると捉えることができます。
マーケティングに課題があると認識している場合、自社はどこの部分を再度見直すべきなのか?
一緒に考えながら読み進めていただければと思います。
まずは市場調査です。
これから立ち上げようとしている事業は市場調査(マーケット規模)と顧客理解(潜在的なインサイト)を把握することがとても重要です。
市場調査でのポイントは「数値」や「データ」×「顧客心理のインサイト」に基づいた調査を行うことです。
例えばオフィス用デスクの場合、
・オフィスにおけるデスクの所有率は?
・必要な面積を有しているオフィス用の物件数は?
・該当物件の空室率は?
・一社あたり何台所有するのか?
・デスクの市場価格は?
・デスクにはいくらかけるのか?
・デスクの何を重視して選ぶのか?
・何年スパンで買い替えるのか?
・競合他社は何社いるのか?
・各メーカーの市場占有率は何%なのか?
データに落とし込むことができるポイントは多数あります。
また市場調査には様々なやり方があります。基本的な方法としては、公開されているデータの活用や定量・定性アンケートをもとに市場調査を行う場合が多いです。
飲食店などtoC向けのサービスであれば覆面調査も有効な調査方法として頻繁に実施されており、決まってこの方法が正解というものはありません。
よくある失敗例を一部紹介します。
アンケートを実施する際の質問の設計ミスです。
・質問の設計ミス
例えば経営者に対して「オフィスに置きたい机の種類」についてアンケートを取る際、機能性の高いデスクデザイン性の高いデスクコストパフォーマンスの高いデスクという3択の質問を投げかけるとします。そうすると、この3択以外のデスクをイメージしていた経営者の声を拾うことはできません。よって、この質問は「3択の中ならこれが人気」という限定されたデータに留まり、それ以外の回答が多数派だった場合は市場で最もニーズのある声のデータ化に失敗するわけです。
★解決策
まずは少人数の対象者に自由形式の質問を用意します。そして顧客の奥底にあるインサイトの理解を深めてから、回答者にとって重要な選択肢を見落とさないように準備を整えます。大前提だと思っていたポイントが全く市場のニーズとズレているというケースは往々にしてあるため、自身の偏見は疑ってかかる必要があります。
他にも、対象者の選別ミスや収集したデータの解釈ミスなど様々ありますが、そちらに関しては統計調査の専門家による書籍など多数発売されていますのでそちらをご参照ください。
次に調査した市場を類似したグループに細分化していきます。
オフィス用デスク販売の場合、・地理・従業員数・オフィス面積・設立年数・売上高・志向・・・などの変数で細分化をしていきます。一般的に「セグメンテーション」と言われる作業がこれにあたりますが、競争戦略を立てる上で非常に重要な工程になるため、セグメンテーションの主なポイントを抑えていきましょう。
より多くの企業(人)に買ってもらいたいという意識から、ざっくりとした分類にわけてプロダクト開発をしてしまう例が往々にして見られます。
しかし現代は物やサービスが溢れている時代なので、どの顧客を狙い、どこに経営資源を集中させるのかを見極めないと、競合に淘汰されてしまうケースが非常に高いです。
細分化の粒度を上げることにより、各セグメントの市場規模や競合の占有率を可視化することができるため、勝ち筋を導きだせる確率が飛躍的に上がります。
例えばオフィス用デスクの場合、
・経営者の年齢・性格
・企業の設立年数
・売上高
・従業員数
・地理
・業種
・顧客課題
などを割り出していき、どのような企業にその机が求められているのかを算出していきます。
セグメンテーションの精度が高ければ高いほど、ターゲット設計の精度を高めていくことができますが、逆にセグメンテーションが雑になってしまうと適切なターゲットの選定、市場規模把握、競合の占有状況把握などの精度が下がってしまうため、入念な精査をすることがポイントです。
市場の細分化ができたら、切り分けた市場の中でどこの市場を狙うかを選定していきます。「ターゲティング」と呼ばれる工程です。
新規顧客の開拓はこのターゲティングから全てが始まります。
ここを間違えてしまうと後の営業活動に大きな支障をきたし、事業の成長を大きく妨げてしまうことになるため、精度の高さが求められます。
この章では、マーケティングの第一人者フィリップ・コトラー氏が提唱したターゲティングの6つのポイントをご紹介します。
・市場規模は充分か(Realistic Scale)
ターゲティングをする上で市場規模は重要なポイントになります。
抑えておきたいのは「マーケットが大きければ良いというわけではない」という点です。
マーケットが大きくても競争が激化していれば勝ちあがる可能性は相対的に下がり、ニッチな市場でも競争率が低ければ安定した収益をあげていける可能性は充分にあります。
例えば、IT、AI、シェアリングエコノミーなど市場拡大は見込めて競争率が高いマーケットで勝ちあがる企業もあれば、雄牛の貸し借りサービスなどニッチではあるが確実に需要がある市場で安定した収益をあげている企業もあります。
「市場規模の大きさ」ではなく「自社にあった市場で戦う」ことがポイントとなってきます。
・成長性はあるか(Rate of Growth)
衰退していく産業に参入するのは高見を目指すために下りのエスカレーターを登るようなものなので、できれば避けて通りたいところですね。
ここでのポイントは「成長率を見る上で現段階だけでの市場規模に囚われすぎない」という点です。
前述でマーケットを把握する事について触れましたが、今大きくても後に衰退する可能性が高いという場合もありますし、今小さくても今後大きく成長していく場合もあるので、中長期的にどう変化していくのか?という観察眼を持って経営判断することが大切です。
・顧客にとって優先順位は高いか(Rank)
顧客にとって自社製品の強みはどのくらい優先度が高いのか?を示した指標です。
ランク付けをすることで「自社商品の強みは誰に求められているのか」が分かり、どの市場にどのくらいニーズがあるのか?を算出することも可能です。
例えば、競合と比べて圧倒的にコストを抑えられるデスクではあるが、おおよそ3年で買い替える必要があるという特徴の商品を売りたい場合、高ランク企業にスタートアップ企業やベンチャー企業が当てはまり、低ランク企業に上場企業や大企業があてはまります。
ターゲット層の関心が高い商品を適切なタイミングかつ適切なコミュニケーションを用いて提供ができれば、プロモーションの投下効率も向上してきます。
・リーチすることはできるか(Reach)
ユーザーにアプローチをして到達することができるのかを判断する指標です。
どんなにニーズがあるターゲット層だとしてもアプローチが届かなければ意味がありません。物理的な距離や言葉の壁、プロモーションが届く導線なども、この時点で見極めておく必要があります。
・競合状況はどうか(Rival)
ここが最重要指標だといっても過言ではないのが競合状況です。
度々触れてきましたが、マーケットが大きくても競合が多数ひしめきあっていては勝ちあがる可能性は競合数に比例して下がります。
「ライバルが少なく特定企業に独占されていない市場」が最も理想的ではありますが、競合が多くても成長率が高くまだまだ伸びる余地がある市場であればチャンスは充分にあるため、自社の強みと市場状況のバランスを照らし合わせる必要があります。
・測定はできるのか(Response)
マーケティング活動において、実行したアクションによって得たデータを元に仮説検証を繰り返していくことは必要不可欠です。
従って、アプローチした顧客から反応が得られるのか否か?非常に重要なポイントになります。
例えば、WEBサイトでキャンペーン内容を上部に配置するか左右に配置するかで顧客のサイト回遊時間などを測定することもできますし、購入してくれた顧客に対してアンケート調査などができれば、何に喜んでくれたのか?どの年代に人気なのか?どのような志向の人に人気なのか?などを知ることができ、次の施策に活かすことができます。
ターゲットの選定が済んだら、狙う市場の中での自社の立ち位置を明確にする工程に入ります。一般的に「ポジショニング」と呼ばれる工程です。
顧客から見たときに、「競合ではなく自社を選ぶ理由は何なのか?」を明確に定義し表明する必要があります。
この章では、ポジショニングにおける4つのポイントを紹介します。
充分な市場規模を確保しているか
ポジショニングの目的は競合他社と自社商品(サービス)は”何が違うのか”を差別化することにあります。しかし差別化した結果、それを求めるターゲットの母数がそもそも少なければ事業として成り立たなくなるので、ポジショニングを取る際には必ずそれを求めるユーザーの母数が適切かどうかを見極める必要があります。
競合他社との差別化ポイントは明確か
企業サイドがいかに差別化をはかり表明しても顧客にそれが正確に伝わらなければ意味はありません。
そのためにまずは社員一人一人が自社のポジションを明確に把握しておく必要があります。
ポジショニングをはかる際には「ポジショニングマップ」を使用し、誰が見ても一目で分かるように心がける必要があります。
顧客に求められているポジションが取れているか
次に明確にしたポジショニングに顧客が共感してくれるか否かが重要です。
いかに他社と異なったポジションを取っても、それを求めてくれるユーザーがいなければこちらも事業として成り立ちません。
しかしこの状態は非常によくあるケースで、特にプロダクトアウト型の事業によく見られます。開発者のこだわりが強すぎる場合など、ユーザーの声が蔑ろにされている場合、売上にそれが直結して事業が衰退していく傾向が高くなります。
経営理念と事業のミッションに整合性はあるか
言っていることとやっていることの整合性が保てていないと信頼を勝ち取りづらいのは企業に限ったことではないためイメージがしやすいのではないでしょうか?企業が達成したい目的のために適切な手段として商品やサービスは存在するため、新規事業を立てる際や大きく事業転換をはかる際は、その商品・サービスが企業の目指す方向性にマッチしているかどうか?顧客から見て違和感がないか否か?を慎重に見つめ直す必要があります。
参入する市場で自社の立ち位置を明確化できたら、いよいよ商品・サービス設計に入ります。
注意すべきポイントは「企業が作りたい物を作る」のではなく「市場に求められる物を作る」という点です。
上述したように、商品設計において市場のニーズよりも会社や開発者のこだわりが優先されると経営が傾く可能性が非常に高いです。
無意識のうちに市場のニーズからずれた設計にならないよう、「調査に基づいた”数値”からニーズを判断する」「”第3者の知見”を取り入れる」など慎重に設計を進めていく必要があります。
商品・サービスができあがってから価格を決めるという事例が多いですが、価格設定は商品開発と同時並行で進めるというのがポイントです。
ターゲットや競合、ニーズから逆算したマーケットイン(売れるものを作る)の考え方で商品開発に着手すると、開発の時点でその商品にいくらの価値がつくのかはおのずと割り出すことが可能となります。
また単価に合わせて付加価値をつけていくことも可能です。
「作ったものをいくらで売りたい(プロダクトアウト)」ではなく「その商品は市場でいくらの価値がつくのか(マーケットイン)」を逆算した上で、商品・サービスの適正価格を慎重に見極めながら開発をしていくことが重要です。
出来上がった商品を「顧客にどこで販売するのか」を設計していきます。
大前提として、商品の売り場所はアプローチしたいターゲットが手に取りやすい場所・時間を考慮して選定する必要があります。
またここでのポイントは「売る場所で商品のイメージは変えられる」ということです。これはオフライン、オンラインに関わらず同じことが言えます。
例えばオフラインで机を販売する場合、同じ価格の同じ机だとしてもそこが「百貨店」なのか「ホームセンター」なのか「家具屋」なのかで、買い手のイメージは大きく異なります。
商品のUSP(強み)や設定価格を顧客目線で捉えたときに、いつどこで販売するのが適切なのか、整合性を意識して流通設計をしていくことが大切です。
「販促プロモーション=マーケティングではない」と前述したように、販促プロモーションはマーケティングの全体戦略における1パートに過ぎません。
しかしながら、物が溢れている現代では販売戦略が事業の拡大において大きな鍵となることも事実です。
いかにしてターゲットに自社商品・サービスを認知させ、効果的な訴求をし、購買までの導線を作るのか、マーケティング担当者の方は日夜模索していることかと思います。
・顧客は誰なのか
・抱えている課題は何なのか
・なぜその課題を解決できるのか
・なぜ競合ではなく自社なのか
・なぜそれを買うのか
・なぜそれを買わなかったのか
・どの広告媒体を使うのか
・いつ / どこで / 誰に / 何を / どのように発信するのか
日々の市場動向に合わせて、数値分析、仮説検証を繰り返していくことが必要です。しかしながら、販促プロモーションにも当然費用がかかります。
業界では「広告費に5,000万円かけて売れない商品は何をしても売れない」とよく言われますが、顧客ニーズとズレている、ターゲットサイズが小さすぎる、価格が適切でない(高すぎる/安すぎる)、商品力が弱い、など広告以前のマーケティング課題を抱えている場合、販管費が無駄打ちになってしまう可能性が高いです。
一定の販促活動を行った結果が目標値に遠く及ばなかった場合、市場分析→ターゲティング→ポジショニングの分析に立ち返り、マーケティングプランを再設計しましょう。
商品開発部・営業部・マーケティング部など様々な事業部が縦割りで動いているケースを(日本企業では特に多く)目にしますが、これら各事業部全ての意思決定はCMO(マーケティング責任者)が行うことが理想的であると我々は考えます。
「マーケティング=市場に価値を創造する全ての仕事」と捉えた場合、顧客が自社商品・サービスの ”何に” 価値を感じてくれているのか?を最も把握しているのは日々マーケットと向き合い仮説検証を繰り返しているCMOだからです。(であるべきです)
商品開発・営業・マーケティングの全ての情報をCMOに集約することで、開発した商品が市場ニーズとズレている場合や、営業が顧客の温度感にあったアプローチをできていない場合など、マーケットインの観点から各事業部の軌道修正をすることが可能になり、より顧客に喜ばれるパフォーマンスを発揮できる可能性が高まります。
しかし、上記のようなドラスティックな組織改革を推し進めることは容易ではなく、特に役員会議で稟議を通すことが非常に困難です。(弊社の支援企業もここにとにかく苦戦します)そこで我々がよく使うソリューションが「分断化された各事業部の横断化」です。
事業部が分断化されているとそれぞれが目先のKPIを追ってしまい、企業全体としての最終目標を見失ってしまいがちです。例えば、
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開発部「私たちは納期に間に合わせた」
マーケ部「私たちは目標リード(見込み顧客)数をトスアップした」
営業部「私たちは目標の受注率を達成している」
ーーーーーー
上記のような目先のKPIに意識が向いてしまい、本当に目を向けるべき “市場・顧客” に意識が向かなくなるというケースが非常に多く見られます。
ここの課題に対して、(我々の解決事例で恐縮ですが)組織内にマーケターがいない場合は外部人材をアサインし、KGIや目的に即した「顧客ニーズ」の視点、いわゆるマーケットインの視点から各事業部の目標数値を再設定し連携強化を高めていくなど、組織内改善の手立てを打っていく必要があります。
※KGI:最終目標数値(Key Goal Indecator)
※KPI:中間目標数値(Key Performance Indecator)
マーケティング活動において切っても切り離せないのがKGI・KPI設計です。
BtoB向け事業の企業様を例にだすと、
KGI=売上や受注数 KPI=見込み商談数、商談数、架電数、問い合わせ数、etc
KGIからKPIを逆算して設計していく流れをとっているかと思います。
一見簡単なように見えますが、実際にKPI運用をしてみると、、、
KPIを達成したのになぜかKGIが達成できない→KGI未達要因の分析に時間がかかる
↓
新たなKPIを設計し達成したがそれでもKGIに届かない
↓
KGI未達要因の分析に時間がかかる→新たなKPIを設計し達成したがそれでもKGIに届かない
↓
一体何を目標指標にすればいいんだ→そもそもKGIに無理があるのではないか
というように想定通りに進むことはほぼありません。
特にBtoBマーケティングの場合、成約に至るまでに様々な要因が複雑に絡み合いますので、ひとえに「商談獲得100件!」といっても目標数値達成までのプロセスはそう簡単ではありません。
KGIから逆算した施策毎のKPI設定方法は以下の記事で解説しますので、当記事では企業が陥りがちなKGI・KPIの設計ミスパターンを3つご紹介します。
KPIがKGIに紐づいていない
極端な例ですが、
ーーー
月5件受注(KGI)の為に月100件の商談(KPI)を獲得しよう!ということで100件の商談を獲得したが、受注結果が0件だった。ならば翌月は150件を目指そう!
ーーー
そんなことがあるのかと感じられたかもしれませんが、テレアポやDMなど細かい施策レベルで見ると往々にして起きている現象です。このような場合、提案内容 / リードの質 / どこで離脱しているのか、などから「1点」ずつ軌道修正を行い、まずはその施策で1件獲得するため獲得率、必要工数を把握しましょう。
複数箇所を同時に改善してしまう
軌道修正をする際、
ーーー
リードの獲得方法をテレアポからアンケート回収に変更し、提案内容の○○部分を修正しよう!
ーーー
というように複数箇所を同時に軌道修正してしまうと、「結果が変化した要因は結局何だったのか?」が見えづらくなってしまいます。上記の例だとドラスティックな根本改善が必要そうですが、日々の軌道修正をする際は「1点」ずつの軌道修正を心がけましょう。また、できなかった理由ばかりを考察してしまうと常に対処療法になってしまい前進しづらいので、「何がダメだったのか」→「どうすればよかったのか?」の思考回路でPDCAを回していくことがオススメです。
追うべき指標が多すぎる
これもよくあるパターンです。
ーーー
商談数20をあげ、リードの質を高め、クロージング回数を1.5倍にしよう!
ーーー
極端な例ですが、追うべき指標が多すぎると現場は機能しません。
すぐに商談数を高めるためには行動量を増やすしかない。
しかしリードの質を高めるためにはリストのセグメント精査やリストアップに追加で時間がかかる。そもそもリードの質が高まればクロージング率は上がる。
など、トレードオフの観点が抜け落ちているKPIや、相互作用性の高いKPIが同時に設定されていたりするとうまく機能しないので、よりシンプルに、分かりやすいKPI設定を心がけましょう。
尚、どんなにKPIの再設定をしても業績が伸びないという場合はそもそもターゲティング・ポジショニングが適切でない可能性が高く、企業にとっても社員にとっても辛い状況が続くため、経営陣の方は手を打つタイミングを見定めることが大切です。
次にコミュニケーション設計です。前提として抑えておきたいのが、「販促プロモーション」と「コミュニケーション」は全く違うという点です。
「販促プロモーション」=接触前、企業から顧客への一方通行
「コミュニケーション」=接触後、企業と顧客間での双方向
この大きな違いがあり、どこで、誰に、どのような接点を作って、どのように顧客化していくか?という中長期的な視点が求められます。
その際、顧客に自社を認知されてから購入に至るまでのプロセスを見える化することが大切です。このプロセスを一般的に「カスタマージャーニー」と言います。
特にBtoBマーケティングにおいては商品購入・サービス導入までに関係者が複数存在することが想定されます。各担当者によって抱えているミッションや課題は大きく異なるため、それぞれの担当者毎、関心フェーズ毎にどのようなコミュニケーションを取っていくのかを事前に設計しておくことが重要なポイントになります。
興味あり | 比較検討 | 期待値確認 | 購入 | |
---|---|---|---|---|
現場担当社 | 自社に必要だとは思うが 上長にどのように提案すべきか分からず サポートしてほしい |
当社を選ぶ理由をどのように 上長に提案するべきか 端的に教えてほしい |
上長に提案することで褒められそうか、 出世できそうか、 怒られないか |
— |
意思決定者 | 自社の課題を どのように解決できるのか 提示してほしい |
関連業務との連携が どのくらい取れるのか、 競合とどう違うのか知りたい |
導入することで得られる ベネフィットは何か、 どのくらいか |
サポート体制はどうなっているのか、 満足な結果を得られなかった場合の 保証はどうなっているのか |
最終決裁者 | — | — | 投資対効果を提示してほしい、 長期的に必要か不要か |
— |
接触するタイミングや接触する担当者によって求めている情報や根底にあるニーズは全く異なります。上記はほんの一例にすぎませんが、顧客が商品を購入するまでの一連の流れを戦略的に創造できるように、入念なコミュニケーション設計を策定いきましょう。
最後に、新規事業の立ち上げには事業戦略と併せてファイナンス戦略を組む必要があります。練り込んだ事業戦略を財務数値に落とし込んでいくという順序を取るため、重要な経営資源である「資本」を充分に獲得できるか否かは、事業計画の再現性と精度にかかっています。
企業が調達できる資本は「自己資本(エクイティ)」と「他人資本(デット)」の2つに分けられ、それぞれについて簡単に紹介いたします。
・自己資本(エクイティ)
株式を発行することで投資家から集めるお金のことを指します。
大きな特徴は「返済の義務がない」ことです。投資家はリスクを背負う代わりに企業が莫大な売上を上げれば配当を得ることができ、株主総会で企業経営や意思決定に対して発言権を得ます。企業から見れば返済義務のないお金なので一般的に「自己資本」と呼ばれ、バランスシート(貸借対照表)上でも自己資本扱いとなりもちろん金融機関からも負債とはみなされません。
企業に魅力があれば借入では調達できない額のお金を調達できますが、後ろ向きな発言をする株主に経営の足を引っ張られる可能性なども考慮する必要があるでしょう。
・他人資本(デット)
主に金融機関からの借入を指し、利子をつけて「返済の義務を負う」ことが特徴です。
また、金融機関は貸したお金が返ってくればそれでいいので、エクイティとは違い企業経営に口出しすることはありません。
企業から見ると、エクイティでの資金調達の方が一見有利に見えますが一概にそうとは言いきれず、外部の人間に経営に関わられたくないしお金を返していける体力・見込みがあるとのことでしたらデットファイナンスの方がマッチしているという場合もあります。
市場規模やターゲットサイズ、中長期的な獲得マーケットシェアのみならず、見込み売上から顧客獲得単価まで綿密にマーケティング戦略を練り込んで、初めて投資判断及び財務数値への落とし込みが可能になります。
非上場企業がエクイティファイナンスで資本を集めるのはかなり難易度が高いですが、VCなどを活用して必要な経営資源を担保するためにも、走り出す前にしっかりとマーケティング戦略を立てておきましょう。
今回のコラムでは「マーケティング ≠ 販促プロモーション」というテーマで、広義のマーケティング戦略について解説をいたしました。
今多くの企業が企業の存続をかけてデジタルシフトに注力をしています。しかし、デジタルシフト(いわゆるDX)は「目先のタスクをIT化する」「とにかくネットで広告を打つ」ことでは決してありません。
MITの主任研究科学者であるGeorge Westermanは「DXが正しく行われることとは、毛虫が蝶に羽化するようなもの。ただし、それが正しく行われなかった場合、それは単に動きが速い毛虫であるいうだけです。」と仰っていましたが、まさしくその通りだと思います。
DXとは詰まるところ、組織改革。
マーケットインの視点で市場のニーズに合わせて常に組織を変化させ、勝てるスキームを組織全体で構築していくことができる企業だけが勝ち残っていける、我々は時代に ”変化” を求められています。
先を見極め、変化を先読みし、市場を魅了するビジネスを作り出していくための戦略を組織全体で構築していくことを、社員1人1人が意識して市場を作り上げていきましょう。
オンラインのお打ち合わせにて、業務委託の活用方法や候補者をご提案をいたします。