デジタル化が普及したことにより、プロジェクト責任者にはビジネスリテラシーや推進力のみならず、ITリテラシーも必須条件となりました。そのため、事業拡大におけるプロジェクトマネジメントは年々高度化の一途を辿っています。このような背景から事業の立ち上げフェーズやグロースフェーズにおける課題やタスクは山積みとなり、企業の担当者は「何から手をつけたらいいのか、、、」と頭を抱えている方が多いのではないでしょうか。
経営陣と実行メンバー、各部署や外部関係企業などのステークホルダーと連携強化を図りながらプロジェクトを成功に導いていく。
変化の激しい現代を勝ち抜ける事業推進ができるか否か、”重要な鍵を握るのはプロジェクトマネージャーである”と言っても過言ではありません。
今回の記事ではマーケティング活動におけるプロジェクトマネージャー(以後PM)の役割、成果を出し続けているPMの共通点などをご紹介していきます。様々なPMと共にプロジェクトの併走をしている我々の観点から、”できるだけ机上のテクニック論ではなく現場で必要とされているプロジェクトマネジメント”を紐解いていきます。
事業推進における第一の業務はプロジェクトが目指すべきゴール(KGI)を”数値で示すこと”です。ゴールを数値化すべき理由は大きく2つあります。
一つ目は、業務を達成目標から逆算できるようにするためです。最終到達目標が数値で設定されていないと、必要なコストやリソース、納期などの設定が曖昧なままプロジェクトがスタートしてしまい、事業が失敗に終わる可能性が高まります。事業の勝ち筋を構築していくためにも、ゴールを数値設定しておくことは必要不可欠な要素と言えるでしょう。
二つ目は、全プロジェクトメンバーが目標達成に向けて足並みを揃えるためです。特にコミュニケーションが希薄になりがちな外部の連携企業とは、目標KPIを達成していく上であらかじめ目的を共有しておかなければなりません。また、最終到達目標、半期目標、四半期目標など、できるだけ短いスパンで達成目標を数値で示しておく必要があるでしょう。
KGI設定の次はロードマップ設計です。マーケティングにおけるプロジェクトマネジメントにおいては、ロードマップ設計で大まかな勝ち筋を明確化することが重要なポイントです。ポジショニング設定→ターゲット設定→コミュニケーション設計→ロイヤルカスタマー化までのマーケティング施策を策定し、それらをプロジェクトメンバーに共有する必要があります。PMがロードマップをチーム全体に共有することで下記の2つが実現できます。
一つ目は、KGI達成からブレることなくチームが向かうベクトルを統合できること。
二つ目は、メンバー全員の視座を「目の前のタスクをこなす」から「プロジェクトを成功させる」に転換できることです。チームは個人の集合体ですから、一人一人にとって「プロジェクトの成功」が自分ごと化することでチームパフォーマンスは飛躍的に向上します。また、PMが勝ち筋をチームに共有することはプロジェクトリーダーとしてチームを牽引していく統率力にも良い影響を及ぼします。強いリーダーシップでチームの結束を強化しプロジェクトを成功に導くことはPMの重要な役割の一つと言えるでしょう。
ロードマップ設計に則った事業推進をするために必要不可欠な要素がQCDバランスの定義です。QCDとは、Q(品質)C(コスト)D(納期=提供スピード)を指します。QCDの3要素はそれぞれが相関関係にあり、二つの観点から定義付けをしなければなりません。
一つ目は、事業のポジショニング、ターゲット層に則したQCD設計です。当然のことですが、事業のポジショニングとターゲット層によって適切なQCDバランスは大きく異なります。例えばオーダーメイドの高品質スーツ販売であれば当然高いクオリティを求められますが、その分ある程度高いコストでの販売と、市販のスーツと比較した際に、提供するスピードが少し遅くても問題はありません。逆にオーダーメイドが上下5,000円でその日中に仕上がるスーツだと「本当に高品質?」となり顧客が離れてしまうため、全ての要素を異常に高めることが「善」ではないという点を押さえておきましょう。
二つ目は、KGI達成のために必要な最低ラインのQCD設計です。KGIを達成するために与えられた時間とコスト、担保しなければならないクオリティの最低ラインを定義しておくことで、必要なリソースや業務の優先順位決定、外部パートナーの選定などをスムーズに行うことができます。逆に、QCDの最低ラインを定義していないと一貫性の伴わない施策ばかりでプロジェクトが失敗に終わる可能性が高いため、PMが事前にQCDを明確化しておくことは事業を成功に導く大きな鍵と言えるでしょう。
次にWBS(Work Breakdown Strucure)の作成に入ります。
WBSとはKGI達成までの全ての作業を分類ごとに細分化し漏れなく洗い出す作業です。KGI達成に必要な業務を細分化していくことで下記のような効果があります。
・作業の漏れ防止
・優先順位の可視化
・必要なリソースの可視化
・必要なコストの可視化
・役割の明確化
・スケジューリング精度の精巧化
・進捗管理の効率化
など。
マーケティングは正解が一つではない分、現場レベルで施策やリソースが不必要に分散化しがちです。無駄なリソース配分を未然に防ぐためにもWBSを事前に作成しておく必要があります。また、メンバーの退職など不足の事態が生じた際には必要なタスクの抜けが出やすくなります。このような際にも、ヒト・モノ・カネのリソースをどこに集中投下すべきか、プロジェクト全体のタスクを一覧で見える状態にしておくことがリスクマネジメントにも繋がるため、WBSの作成は事業推進を担うPMの役割です。
WBSでKGI達成に必要なタスクが明確化したらリソースの洗い出しをします。
まずは自社リソースでどこまでのタスクが追えるかをPMが把握しておく必要があるでしょう。この際、リソースを適材適所に配置できるか否かはPMの手腕にかかっています。
・各メンバーが現在抱えているタスク量はどの程度なのか?
・追うべき指標の達成可能性はどの程度なのか?
・個々が継続して目標を達成するために必要な要素は何なのか?
など。
「リソースを確保する」ではなく「目標数値を達成できるリソースを確保する」という観点でリソースを洗い出す必要があり、そのための変数要素は多分に存在します。この辺りのバランス感覚は一朝一夕で身につくものではなく、発生する業務への精通度と現場におけるマネジメント経験が必要です。プロジェクトを動かすのは紛れもなく「人」なので、リソースの配置は事業推進において最も重要な要素の一つと言えます。リソースの洗い出しと適切な配置においては、人事部や役員レイヤーではなく、業務の優先度、必要コスト、クオリティ担保、これらを包括的に見通すことができるPMの役割です。
自社リソースで担える業務のスコープが確定したら、自社リソースで担えない業務の委託先、すなわち外部パートナーの選定を行います。外部パートナーの選定はプロジェクトの成功を大きく左右する重要な業務です。クオリティ担保、かけられる予算、作成期間など、様々な制限のある中で最適な業者を期限内に選定しなければなりません。選定にあたっても業界に精通しているPMが指揮を取り、事前にミスマッチを防ぐことが必要です。
リソースの洗い出しと並行して、プロジェクトにおける各チームの中間KPI設計を行うこともPMの重要な役割の一つです。KGI設計と大枠の絵はPMが描き、中間KPIの設計は各部署のリーダーが行っているというチームもありますが、プロジェクト推進における全ての中間KPI設計はPMが担うべきです。理由は一つで、全体最適の観点からKPI設計をする必要があるためです。KGIに紐づくKPI設計においては、最終目標数値を達成するための最適なリソース配分、QCDバランスを加味した上での数値設定など、KPI設計に影響を及ぼす変数要素はたくさんあります。プロジェクト全体に散らばる変数要素を整理した上で各部署の達成すべき中間KPIを設計できるのは、チームの中でPMしかいません。また各部署が目下の数値を追いかけてしまいKPIがそもそもKGI達成からズレているというケースもよくあります。KPI設計が一つでもズレるとチームの進むベクトルは連鎖して次々に分散していきます。チーム全体を統合しプロジェクトをKGI達成に導いていくという観点からも、チームのKPI設計を担える存在はPMとなります。
稼働が取れるリソースの洗い出しが済み次第、リソースを集中投下すべき業務の優先順位決定に入ります。リソース配分の優先順位は事業フェーズによって大きく異なります。「どのタイミングに」「何を達成していなければならないのか」そしてそのために「必要な施策は何なのか」が明確になっていないとリソース配分の優先順位をつけることはできません。例えば、シード期に事業がこれからローンチされるというケースで考えてみます。年間目標が100件の新規アカウント開拓だとした場合、必要なのは即効性の高い施策です。例えば、紹介を頂く活動などのリファラルリード獲得や、顕在層へのアプローチを目的としたWeb広告を活用したリード獲得が該当します。このケースでリソースが限られている場合、コンテンツマーケティングのような成果が現れるまで時間のかかる施策は優先度が低くリソースを割くべきではありません。シード期のリード獲得手法を誤ると、PMF(プロダクトマーケットフィット)までの道のりが長くなります。シード期はとにもかくにも、PMFを目指すことが重要なため、リードタイムの長い施策にリソースを割くことは不適切です。逆に、ある程度事業が軌道に乗り始めたタイミングや、PMF後には他社との激化も想定されます。その際には、チーム内のHR補強、内部コンテンツの作り込みなどにリソース配分を集中投下する必要があります。リソース配分の優先順位決定にあたっても、KGIから逆算された事業計画をPMが綿密に計画できているかが肝になってきます。
次に施策実行パターンの策定です。プロジェクトマネジメントの計画フェーズでは、ここが最も難易度が高いのと同時に、PMにとっては一番の腕の見せ所になります。施策実行パターンの策定とは、複数のマーケティング施策をパターンA、パターンB、パターンCというようにあらかじめ準備しておくということを指します。特に現代のようなデジタル技術を活用したマーケティング施策の構築は難易度が高い上に流行の変化も激しく、再現性高く勝ち筋を作っていけるマーケターは現在でも各業界でトップを走り続けている一握りのマーケターに限られています。また、勝てる施策を立てることに加えて使えるリソースは限られているため、P/Lを踏まえた上で中長期的な視座から勝ち筋を施策に落とし込むことができる「マーケティングスキル」と「経営スキル」が求められます。これらを持ち合わせたPMはさらに一握りの存在ですが、その分PM次第でプロジェクトに与える事業インパクトが大きく左右されます。
いよいよ実行フェーズです。実行フェーズにおけるPMの業務は「指標管理に始まり指標管理に終わる」とも言えるほど「指標管理」が重要なポイントになります。なぜならPMに与えられた役割はプロジェクトの成功、すなわち「KGIの達成」であり、KGI達成に至るための絶対条件が「KPIの達成」だからです。進行状況の把握、課題発生要因の洞察、打ち手の策定など、プロジェクト推進における全ての思考は「KPI指標」を元にしたものでなければなりません。当たり前のことを言っているようですが、特にコミュニケーションを大切にするPMほど現場の声に引っ張られ「KPI達成」に影響のない課題解決にリソースを割いているケースはよく目にします。抽出した課題に優先順位をつけること、指標ベースではなく定性的な観点からマネジメントを行う際は、それが「KPI達成」に本当に結び付くマネジメントなのかをしっかりと考察することが大切です。手を付けるべき課題の優先度は「KPI指標」に及ぼす影響度に比例します。事業推進には膨大な量の課題が発生しますので、「やらないことを決める」という意識を持つようにしましょう。
計画フェーズで立てた施策の実行指揮を取ることもPMの大きな役割です。施策実行を指揮する際は下記2つの見極めがKPI達成に重要なポイントとなります。
一つ目は、実行指示をどの粒度まで分解するか見極めることです。制作を伴うタスクであれば要件定義は粒度が高ければ高いほど再現性の高い制作物ができやすいです。マーケティングを伴うタスクであれば、損切りラインや指標結果ごとの打ち手までタスクの粒度を上げることでロードマップに沿った事業推進がしやすくなります。しかし、PMが施策全ての粒度を上げすぎると自分の頭でKPI達成までのPDCAサイクルをディレクターやメンバーが回せるようになりません。メンバーのスキルセットや経験値、ノウハウや実績まで考慮に入れて、より高い成果を出せる要求ラインをPMが見極める必要があります。
二つ目は、ハンズオフのタイミングを見極めることです。理想の状態はPMが立てたKPIを実行メンバーが自走で達成できる状態です。しかし、プロフェッショナルのみで事業推進ができるというケースは殆どありません。1年目や2年目の社員が実行リソースの半数を占めているというケースもあるでしょう。そういった場合はPMが二人三脚で施策実行を推進する期間も必要です。しかし、ハンズオン状態を長々と続けることはメンバーの自走力やモチベーションを低下させる原因になります。ここでのポイントは、メンバーに「ここまでできるようになったらハンズオフするよ!」とPMが伝えメンバーに自走までの道のりをイメージさせてあげることです。なお、プロジェクト内に推進チームが複数存在する場合、一人一人のマネジメントはPMではなくチームリーダーのスコープとなります。
施策実行が進んでいくと定点ポイントでKPIの達成割合が可視化されます。ここでPMがしっかり押さえておかなければならないのがQCDのマネジメントです。どれだけ綿密な計画も100%計画通りに進んでいくことはまずありません。複数のチームでKPIが大幅に未達という状況もあり得ます。そのような場合、計画フェーズで立てた「KGI達成のために必要な最低限のQCDライン」を再度見直し、PMがリソースやコストを集中投下する領域を的確に見極めなければなりません。一般的には品質担保最優先での施策実行がPMには求められます。理由は、KGIを達成し続けるためにはサービス品質の担保が絶対条件だからです。コスト・納期のマネジメントは目下の課題を解決するための「対処療法」的な側面が強く、品質よりもコスト・納期のマネジメントばかりを優先し続けるプロジェクトマネジメントは持続可能な事業推進とは言えません。とはいえ、事業フェーズや抱えている課題感によってコストや納期のマネジメントも必ず必要になるので、現状把握とQCDバランスの見極めが適切にできる人材をPMに置くことが望ましいでしょう。
成果を出し続けていくためには、選定した外部パートナーのマネジメントも事業推進には欠かせない要素です。3方よしを目指し、自社、顧客、パートナーがそれぞれ良い関係でビジネスを構築していくことが、中長期で事業を成長させていく観点で非常に重要となります。目指すべき目的を外部パートナーやベンダー企業にも共有し、同じ目標を一緒に目指してもらえるようなコミュニケーションを心掛けましょう。依頼しているKPIをクリアをしている時は、感謝を述べることは人が活動していることなので、報酬と同等に重要です。当然、未達の時や進捗が芳しくない時の外部マネジメントも重要です。特に外部企業とはコミュニケーションが社内スタッフに比べて希薄になりがちなので作業の進捗度合いが見えづらく、関係企業が増えるに連れて業務の依頼漏れや要件定義の誤認など取り返しのつかない事態も招きかねません。外部パートナーのマネジメントはできるだけコミュニケーションフローをルーティン化し、定期的な業務の進捗確認をする必要があります。またコミュニケーションコストを可能な限り抑えるためにも、複数企業と発生するメッセージのやり取りを一つのツールでまとめて行うなどの工夫が必要です。
成果を出し続けているPMには共通点があります。PMに求められるスキルとは一言で言えば、「チームを勝たせるスキル」です。多くのプロジェクトは「デザインチーム」「コーディングチーム」「マーケティングチーム」「カスタマーチーム」など複数のチームが一丸となって推進されますので、「プロジェクトを成功に導くこと」は「”チームを”プロジェクト成功に導くこと」であると言い換えることができます。今回は業務委託として成果を出し続けているプロジェクトマネージャーの共通点を7つに絞ってご紹介していきます。
プロジェクトマネージャーにとって最も大切なのは、とにもかくにもまずは「立てた目標を確実に達成するスキル」です。プロジェクトマネージャーの「マネージ(manage)」には「管理する」という意味の他に「何とかする」という意味があります。たまにPMの役割を「業務が滞りなく進んでいるか管理する役割ですよね」と言われることがありますが、我々や(特に業務委託で仕事をしている)PMの認識は少し違います。「何が何でも結果を出す、今あるリソースでとにかく何とかする」少し極端な表現ですが、どちらかと言うとこんな感じの認識です。業務委託の人材は「成果=生活」という意識が強いというのもあるかと思いますが、やはり成果を出し続けているPMは、成果に対する貪欲さ、情熱、コミットメント力が違うように感じます。故に時々業務範囲を飛び越えてしまうこともあったりしますが、そういったPMのプロジェクトに対する情熱や成果に対する貪欲さはいい意味でチームに伝播しますので、チーム全体の士気向上にも繋がります。少し根性論チックではありますが、「チームで立てた目標数値は絶対に自分が何とかする」という貪欲さを持ったPMがリーダーにいるプロジェクトは想定よりも早い段階で目標達成しているケースが多いです。
次にマーケットインの徹底です。「マーケットイン」とは「プロダクトアウト」と対になる考え方で、要は「市場に求められる物を作る(マーケットイン)」か「作った物を市場に売るか(プロダクトアウト)」の違いです。マーケットインの視点が欠けた事業推進は事業を衰退させる可能性が一気に高まります。特に流行の移り変わりが速い現代では、計画フェーズでは市場に求められていたものが実行フェーズではニーズが薄れてしまっていたというケースも珍しくありません。そういった場合、各チームが取るべき動きをマーケットの変化に照準を合わせて進化させていく必要があります。市場の変化に対応しながら事業展開を行えることはPMにマーケター出身者を据えることで得られる最大のメリットでもあります。これは既に実行フェーズにある事業でも遅くありません。例えば受託開発系の企業が展開する自社サービスのPMにマーケター出身者がジョインするケースなどがよくある例です。こういった企業は高い技術力にサービスが裏打ちされているものの、マーケティング領域のプロが社内におらず技術者がプロジェクトの実行指揮を取っているケースが殆どです。ここにマーケターのPMが入ることで、市場のニーズから逆算したターゲット層の見直しや顧客動線の可視化によるアプローチ方法の策定などマーケティングで事業に大きなインパクトを与えるケースがよくあります。チームを勝たせるための条件としてマーケットインの視点をPMが持っていることは必須要素と言えるでしょう。
3つ目は柔軟に変化を取り込むスキルです。既に述べたように、現代は流行が次から次へと移り変わっていく時代です。無料(または定額)で無限にコンテンツを消費可能という消費パターンが浸透したことでコンテンツやサービスが膨大に溢れ返り、流行変動の激化に影響を及ぼしています。これにより「効果があった施策が全く通用しなくなった」「新たな競合が次々と現れサービスの独自性が担保できなくなった」という事態が至る業界で発生しています。より顧客を豊かにできる事業形態とは何なのか?よりターゲットに突き刺さる施策とは何なのか?全ての事業が常に変革を求められていると言っても過言ではありません。とは言え、一度決めたことに「路線変更!」を唱え実行に移していく作業は工数的にも精神的にもPMに相当な負担がかかります。ステークホルダー各所に納得のいく説明をした上で全体変革を行っていかなければならないのです。常に成果を出し続けているPMは、ここで足元の指標とKGI達成から目を逸らさず変化に立ち向かっていける人材です。自己保身のために、勝てない施策を勝てると貫き通してプロジェクトを進めていくことは関係者全員が不幸になる結果しか招きません。市場の変化をつぶさに洞察し、経営陣と認識のすり合わせを行い、いかに実行メンバーへ変革を促していくか、マーケティングスキル、経営スキル、コミュニケーションスキル、そして何より自らが全ての責任を背負って変革に踏み切ることができる自信と勇気、その様な素養を勝てるPMは共通して持っていると断言します。
次に「複雑をシンプルに転換するスキル」です。プロジェクト進行に伴う報告レポートやタスク管理表などのフォーマットをいかに簡素化、標準化できるかは見落とされがちですが非常に重要なポイントです。一つのプロジェクトを推進するにも「マーケティング」「デザイン」「セールス」「カスタマー」「経理」、、、などなど様々なチームが同時に稼働しているため、報連相のコミュニケーション、顧客情報や進捗状況の管理表など、PMを行き来する情報量は膨大です。これらをいかに単一形式で把握できる仕組みにしておくかがプロジェクトマネジメントの肝になってきます。欲を言えば、フォーマットのみならず「いつ」「どこで」「誰が」「どのように」コミュニケーションを取るのかまでPMが規程できると尚良いです。こうすることでタスクの属人化も同時に防ぐことができ、仮に急な欠員が出てもプロジェクトへの打撃を和らげることができます。これはPMだけでなく各部署内でも同じことが言えます。経理部を一つ例に取っても、仮に請求書のフォーマットが各チームごとで異なっていた場合、書類ごとに請求日、請求金額、支払日などの項目が記載されている位置は異なります。これだけで経理担当の確認工数は2倍以上となり請求漏れや誤請求に繋がります。新たにプロジェクトに参画したメンバーが「何をいつまでにどのようにアウトプットすればいいのかすぐに分かる」常にそういった状態でプロジェクトを進めていけるようにPMが最低限ここまでというラインを敷いてあげると良いでしょう。
次に「頭の中でイメージさせるスキル」です。経営陣、実行メンバー、外部関係企業、全てのメンバーとのコミュニケーションにおいてPMに必要とされるスキルがこの「イメージさせる」スキルです。PMにこのスキルが備わっているか否かでチームの結束力が大きく変わります。どのような場面でこのスキルが必要になるのか、いくつか例を挙げながら紐解いていきます。まず初めに経営層とのコミュニケーションにおいて、PMは「自身が描いたロードマップはなぜプロジェクトを成功に導けるのか?」を経営層が脳内でイメージできるようにプレゼンしなければなりません。現実問題、ここを乗り切らない限りプロジェクトへの予算を引っ張ることが困難になります。晴れて経営層からGOサインが出たら、次に「描いたロードマップをどのようにして実現していくのか?」WBSを作成して、経営陣、実行メンバーがイメージできるように示していく必要があります。プロジェクト始動後もずるずると目標未達が続けばメンバーの士気は下がっていき、それぞれのタスクがプロジェクトに与える意義をメンバーがイメージできるよう目線合わせをしなければならないときもあります。しかし「イメージさせる」と言っても小手先でできるものではありません。詰まるところ、相手にイメージをさせる為に最も重要なのは「PM自身がプロジェクトの存在意義や勝ち筋をどれだけ明確に自信を持ってイメージしているか」です。その解像度の高さがリーダーシップの強さにも比例します。
次に「win-winなコミュニケーションが取れるスキル」です。これはPMのみならず全てのビジネスパーソンに必要なスキルだと言えますが、多くのステークホルダーの中心人物としてプロジェクトを推進していくPMには特に必要不可欠な要素です。PMにとってはプロジェクトの成功が自身の「WIN」に直接値しますし、プロジェクトメンバーにとっても外部関係企業にとってもプロジェクトの成功=自身のWINに繋がるのですが、メンバー全員が初めから「プロジェクトの成功=自身のWIN」の意識でプロジェクトに参画しているケースは稀だと思います。例えば、仕事はさておき少しでも早く帰れる事が「WIN」というメンバーだっているはずです。プロジェクトに参画しているメンバーの「WIN」とプロジェクトの「WIN」が違うベクトルを向いている場合、特に目標未達が続いたときにチームとしてのパフォーマンスがグッと落ちる事が多いです。この場合「目標をいつ達成するの?」だけではloseのままコミュニケーションが終わってしまう為、仮に目標未達のメンバーが「早く帰る=WIN」のメンバーなら、その後10分でも「もっと早く帰るために仕事をどう進めていくべきか?」考えるヒントを与えてあげるだけで「win-win」のコミュニケーションになりモチベーションを高められるチャンスにもなります。目標未達でも着実にパフォーマンスをあげてきてるのなら「頑張ってるがもう少し改善が必要だ」の一言で承認欲求が満たされてさらにやる気を出したりもします。メンバーそれぞれの力を足し算ではなく掛け算にしていくために目の前の相手が求めているものを的確にキャッチし、時には実行メンバーをうまく調子にのらせられるようなコミュニケーションが取れるPMがいるチームはメンバーが一丸となっていることが多いように感じます。
最後に「プロジェクトの成功を自分ごと化させるスキル」です。「頭の中でイメージさせるスキル」も「win-winなコミュニケーションが取れるスキル」も詰まるところ「プロジェクトの成功を自分ごと化させること」が大きな目的の一つです。何度か述べたように、プロジェクトが計画通りに進まなくなったとき、各メンバーがプロジェクトの成功を自分ごと化できていないとチームのパフォーマンスはグッと落ちる傾向にあります。「PMの指示通りにやったから仕方ない」という他責思考に陥りやすいからです。しかし目下の目標を達成する事が自分ごと化できているメンバーは、目標が未達だった場合に「何で未達なんだ?」「どうすればいいんだ?」と原因を究明して対策を立てようとします。目標の未達が「PMの責任」ではなく「自分の責任」つまり自責思考で結果を受け止めているからです。どちらがチーム全体にとって好ましい状態であるか言及の余地はないでしょう。
では、どうすればプロジェクトメンバーは与えられた業務を自分ごと化してくれるのでしょうか。まずは「自分で考え」「自分で決め」「自分で実行させる」ことが自分ごと化の第一歩です。KPI設計や業務指示などは全てPMが行うべきだという上述の記載と矛盾しているように見えるかもしれませんが、それはあくまで初期計画段階及び定点観測時の話です。実行フェーズで計画通りに施策がはまらなかった場合、現場で実行しているメンバーに「自分で考えさせ」「自分で打ち手を決めさせ」「それを自分で実行させる」ことがプロジェクト成功の自分ごと化、つまりメンバーの育成に繋がります。施策実行指揮の項で述べたように、ハンズオン、ハンズオフのタイミングを見計らいながらプロジェクトメンバーを育成していくことも、プロジェクト推進においてPMが担う非常に重要な役割と言えます。
PM自体の存在がプロジェクト全体にどのようなベネフィットをもたらすのか、我々が実際に業務委託のPMと共にプロジェクト推進を併走してきた観点から5つのベネフィットをご紹介します。
専任のPMを欠いている多くの企業では誰かが兼任でPM””的な””役割を担っているケースが多いです。このようなパターンで陥りがちなのが「多忙により後手後手の事業推進になっている」という状態です。PMを担える人材自体が市場にまだまだ少ないため、PM確保の前に即席のリソースでプロジェクトが始動してしまうケースは少なくありません。そんなチームに専任のPMが入ることでどのような変化がチームに現れるのか、どういったベネフィットが期待できるのか、本章ではマーケター出身のPMをチームにアサインした前提でご紹介していきます。
まず第一に勝ち筋の明確化です。特にマーケティング領域出身のPMは事業のポジショニングやターゲット層の再定義をした上でのマーケティングフロー設計を得意とします。目標達成までの勝ち筋が明確になっていない場合のよくある例として、「目下の目標KPI達成のためにリソースが割かれてしまい、新規開拓のプッシュ営業における行動量を追う日々から抜け出せない」といった事例が多くの企業に見られます。これはスタートアップの事業に限ったことではありません。立ち上げ期にはプッシュ営業が必要ですが、「誰の」「何を」解決するための事業なのか、「いつまでに」「何を」達成したいのか、そのために今「何を」すべきなのか、「どうして」今その施策なのか、全てKGIから逆算した行動目標がチームに落とし込まれた状態でGOすることで、チーム全体のモチベーション、パフォーマンスは驚くほどに変わります。逆にこれらが落とし込まれていない状態でのプッシュ営業は「永遠にこの営業活動が続くのか、、、」とチームの士気を低下させ、メンバーの退職などでプロジェクト推進がさらに苦しくなるといった悪循環にも繋がります。PMが入口から出口までのマーケティングフローを可視化することで、今あるリソースの最適化、チーム全体が向かうベクトルの統合にいい影響を及ぼすことに例外はないと言えるでしょう。
次に社内リソースの最適化です。プロジェクトマネージャーを新たにチームに配置することで、PMを兼任していた優秀な人材が本来力を発揮すべき領域にリソースを投下することができます。プレイヤーとしてチーム内でトップの実績を作り上げてきた人材がPMの役割を兼任していることが多いため、当人が実行領域でチームに参画できるメリットは組織全体で見ても大きなメリットになります。そして、マーケター出身のPMが組織に参画することで、KGIから逆算されたロードマップを元に「今最もリソースを集中投下すべき領域はどこなのか」を明確にした上でリソースを最適化することが可能です。一人のメンバーがプレイヤーとPMを兼任している場合、自身の目標数値もクリアしながらプロジェクト全体のマネジメントも行わなければなりません。デイリーの数字をクリアしながら全体最適を行うにはどうしても手が回りきらず、その結果、テレアポやDMなど「即効性の高い施策にとりあえず経験者をあてがう」といった短期的な目線のリソース配置に偏ってしまう傾向があります。中長期的な観点から「何故今その施策に人材を集中させるべきなのか」可視化された状態でプロジェクト運営ができるようになるメリットは、KGIの達成可能性を上げるのみに留まらず、チーム全体の士気向上にも繋がります。
「達成目標とタスクは評価シートで既に明文化されてるから大丈夫」と思った方にもお読みいただきたいです。あえて””より明確になる””としてあるところが肝で、事業に直接的な利益をもたらす重要なポイントです。PMが欠けているプロジェクトはKGIに向かうロードマップの設計と、それに伴うWBSの設計が不十分になりがちです。これら二つは作成に高いマーケティングスキルと一定の作業工数が必要となるため、リソースが目一杯の組織では営業活動優先で後回しにされてしまう傾向にあります。しかし、これら二つが明確に定義されるメリットは計り知れません。そのメリットの一つが個人の達成目標とタスクが””より明確になる””点です。ロードマップとWBSがチームに公開されることで、「個人の成果を測るために設定された達成目標」が「プロジェクトのKGIを達成するために設定された達成目標」に進化します。前者と後者でパフォーマンスが変わることを2つの観点から説明できます。一つ目はゴールから逆算された数値設定の方がゴールに到達しやすい点です。二つ目は個人のパフォーマンスに影響が現れる点です。前者の場合、なぜその数値が設定されているのかが実行メンバーの脳内にイメージとして浮かび上がりませんが、後者の場合、なぜその数値を自分が追っているのかイメージしながら業務に邁進することができます。目標未達が続いたとき、自分に任された業務がどのような文脈でチームに必要とされているのかイメージできている状態が「踏ん張り力」として現れます。何となく数字を追っている100人のチームではなく、プロジェクト成功のために踏ん張れる20人のチームが土壇場で勝ち抜いていけるチームです。その強固な結束力を生み出すのが、ワクワクできるロードマップと個々の役割一覧です。それらを設計しチームを牽引していけるPMの存在は組織に大きなベネフィットをもたらしてくれます。
達成目標やタスクを明確化、作成資料のフォーマット化、コミュニケーションフローの定点化、最低クオリティラインの明文化、PMの参画によってこのような仕組み作りが可能となり、この仕組みはノウハウの属人化を防ぐ事ができます。誰が新しく入ってきても「いつ」「何を」「何のために」「どこまでやるべきか」全て見えるようになるからです。「PMがいない状態」は、メンバーが個々でKPI管理している、もしくは何も管理できていないなどの場合も少なくありません。この場合、「何を」「何のために」「どこまでやったのか」「どのような思考回路でそのKPI設計に至ったのか」が個人の脳内でブラックボックス化されてしまい社内にノウハウが残りません。また報告ラインなどが統一化されていないため、人材ごとに業務の透明度が変わってしまいます。人材が流れることを前提としたプロジェクトマネジメントは今の時代必須要素だと言えます。仕組み作りには相当な労力がかかりますが、コスト対効果で見れば圧倒的にプラスの価値をチームにもたらしてくれるため、PMをチームに引き入れる重要なベネフィットの一つだということができるでしょう。
「この施策が一番最適だと考えているが、お恥ずかしながら役員を説得するのに私だけのプレゼンでは力不足で予算が降りなくて、、、」
「マーケティングチームは目標リード数を達成していると言うが蓋を開けたら実際は見込み外のリードが7割で、なのに数字だけ見た役員レイヤーにセールスが弱いと判断されて架電数を増やせと言われて、、、」
このような話は商談の合間合間でよく耳にする担当者のリアルなお悩みの現状です。プロジェクト規模の大小に関わらず、経営陣 – 実行メンバー – 各部署間の””見えない壁””がプロジェクトの円滑な進行を妨げるといったケースはプロジェクト進行に関わったことのある方なら一度は感じたことがあるケースだと思います。このようなお悩みの解決策として「業務委託のPMを引き入れる」はまさにドンピシャの解決策であると我々自身プロジェクト推進を行っている中で日々痛感しています。上下左右の連結を図るために業務委託のプロジェクトマネージャーが何故ドンピシャなのか、3つの観点から紐解いていきます。
一つ目は「プロフェッショナルであること」です。プロジェクトマネージャーとして独立している人材は「業界への精通度」「実績」「マネージャーたる素養」を持ち合わせているその領域のプロフェッショナルです。同じ役員への提案でも「業界に精通していて実績のある人材」からの提案には説得力があります。またP/Lを踏まえた高い視座から経営層とコミュニケーションが取れるのでより円滑に事が進みます。
二つ目は「第三者であること」です。社内の上下関係がない分余計な忖度が発生しません。KGIを達成することが次の仕事に繋がるという側面からも「その気遣いKGI達成に全く必要ないよね?」というよくある忖度が発生しづらく、経営陣に対してバッサリと物が言えるという点も業務委託人材ならではと言えます。
最後に一番大切なのが「コンサルではなく実働メンバーであること」です。「コンサルみたいな感じですか?」という質問をよく頂きますが、業務委託人材は「コンサル」ではなく「メンバー」のイメージが近いです。違いは、実際にプロジェクトの中心人物として「稼働する」点です。実際にプロジェクトメンバーとして稼働しているメンバーからの提言は、机上のアドバイスよりも説得力があります。また、実行メンバーとコミュニケーションも取りますので、経営陣の方から「この人材のこのスキルを伸ばしたいから、このような背中を見せて欲しい」といったような実働メンバーならではの注文もあったりします。このように、「第三者」の「プロフェッショナル」でありながら外野ではなく「メンバーとして稼働」するという業務委託ならではのPMによる”仕事”が今多くの企業に求められていると強く感じています。
プロジェクトを成功に導くため日々奮闘されているPMの方、プロジェクトメンバーとして目の前の課題をどのように解決すべきかお悩みの方、どのようなPMを自社にアサインしようか検討されている方などに向けて本記事を執筆しました。日々、複数企業のプロジェクトに業務委託のPMと併走をさせていただいている我々の観点から、できるだけ机上のテクニック論ではなく現場で必要とされているプロジェクトマネジメントの要素をご紹介させていただきました。少しでもお役に立てれば幸いです。
事業推進におけるお悩みのことがあれば弊社のマーケティングコンサルタントがお話をお伺いいたします。その際は下記のWEB相談ボタンからお気軽にお問い合わせください。
オンラインのお打ち合わせにて、業務委託の活用方法や候補者をご提案をいたします。