採用・教育

マーケター育成を推進する組織づくりとは

2022/03/18

マーケティングの重要性が高まる一方、企業ではマーケター人材の不足や社内育成の難易度が課題になっています。さらに言えば、今後マーケティングリテラシーはマーケターやマーケティング部門のみに限らず、全社的に取り組むべきものだと考えられています。この記事では、マーケターを取り巻く環境の変化を振り返り、マーケターの本質的な役割や育成に必要な心得を紐解いていきたいと思います。

Contents

マーケターを取り巻く環境の変化

デジタルチャネルの多様化により業務範囲が増加

デジタルマーケティングは、インターネットの普及により多様化していきました。日本におけるデジタルマーケティングの歩みを紐解いて見ると、2000年に相次いでGoogleやAmazonが日本に登場し、PCをメインとしたネット時代が訪れました。この時、企業はECサイトを立ち上げる動きが活発になっていきます。2008年のFacebook・Twitterの日本語版登場、iPhoneの登場はデジタルマーケティングの普及に大きく影響を及ぼすことになります。スマートフォンが普及するまでのおよそ10年間は、PCを中心にSEO・SEM・アフィリエイト広告などデジタルマーケティングが成長していきました。この頃のマーケターは、広告出稿が主な業務で、ブランド認知や集客によるトラフィック増加を推進することが大きな役割でした。

そして、2010年代からは、通信環境の高速化によりSNSや動画市場が急成長していきました。PCからスマートフォンを中心としたネット時代に移行した結果、GAFAがプラットフォームの中心的な位置付けとして確立し、日本では、コミュニケーションツールがメールからLINEへ移行しました。この頃からデジタルマーケティングにSNSなどのチャネルが加わりデジタルマーケティング手法は複雑になっていきます。同時にツールや接触チャネルが多様化していき、マーケターはユーザー個々にパーソナライズされたコミュニケーションや全体最適を目指した施策を行うことで、優れたCX(顧客体験)を提供することが求められるようになってきています。

今後は、5GやAIの普及が拡大され、ユーザーの求める価値は商品・サービスから体験が重視されるようになります。企業のマーケティング活動では、近年デジタルが重視されてきましたが、デジタルとリアルの接点を一体化させて顧客体験をつくる「OMO」が主流になりつつあります。現に店舗を持つアパレル企業などでは、店舗とオンラインショップの顧客データを一元化し、以前店舗で購入した服のサイズや種類がわかるサービスがあります。今後、マーケティング部門の組織体制はオフラインとオンラインが融合する「総合マーケティング」を行う体制となり、マーケターの役割も変わっていくのではないかと予測します。

マーケターの本質的な役割とは

戦略を正しい順序で構築する

マーケターの大事な役割はマーケティング戦略を正しく構築することです。マーケティング戦略を考える際は、誰に届けるか(WHO)、届ける本当の価値はなにか(WHAT)、どのような方法で届けるか(HOW)の順序で戦略を構築していきます。

手法としてHOW(そのような方法で届けるか)が先行し、戦術から先に考えがちですが、その順序で戦略を立ててしまっては、マーケティングの成功率は下がってしまいます。たとえば、マーケティング施策におけるテレビCMやWeb広告の出稿といった個々の業務は「戦術」であり、その上位には勝ち筋の構造基盤となる「本当の価値(WHAT)」「関心を持ってもらえる消費者は誰か(WHO)」があります。本質を捉える前に目の前の戦術に走ってしまうと、戦略の領域外に足を踏み込んでしまうこともあります。あくまで戦略を実行するための戦術であるということは常に念頭に置きつつも、誰に届けたいか(WHO)を決め、本当の価値(WHAT)を捉え勝ち筋を構築してから、最適な戦術(HOW)を考える必要があります。
「WHAT」は、WHO・WHAT・HOWの中でも、マーケターの役割はWHATを見極めることにあると言っても過言ではない程重要なポイントです。新たに作り出す商品・サービスはもちろんのこと、すでにリリースされている商品・サービスのリブランディングを行う際にも「その商品の本当の価値は何か」「本質的に消費者に届けたいものは何か」を再定義し、場合によってはブランドコンセプトを変更しても良いでしょう。届けたい相手に対して自社独自でどのようなベネフィットをもたらすかをじっくり考えられるかが鍵になります。優秀なマーケターは戦略的思考とその順序を徹底して戦略を実行しています。

顧客インサイトの深い理解

WHATを導く鍵として本質的な価値を明確にするには「顧客インサイト」を深く理解する必要があります。人は日常の中でさまざまな行動選択をしていますが、その選択のほとんどは無意識なうちに生まれています。その本人も気づいていない無意識の本音こそが顧客インサイトです。顧客インサイトの役割は、そのブランドの持つ強みを消費者が絶対に欲しいと思わせるWHATへと昇華させることにあります。ヒット商品を生み出したマーケティングには徹底した調査・分析の賜物である顧客インサイトの存在があります。

例として、顧客インサイトを見抜きヒット商品となった日清食品の「カップヌードルリッチ」を例に考察してみます。

【ブランドの強み】健康志向を取り入れたインスタント食品
【WHO】健康志向のシニア層
【顧客インサイト】
(当初)
シニア層は健康を意識してカロリーオフや減塩などを気にしている
(再度検証)
シニア層は健康に気を遣いつつも、食事に対して美味しさや質の良さを諦めたくないと思っている
【WHAT】
年齢に捉われず、食事を楽しめるインスタント食品

この商品は、若年層に人気のカップヌードルをシニア層にも食べてもらいたいという思いから新商品として販売しました。シニア層=健康志向という仮説のもとで商品開発を進めていましたが、それほど人気は出ず、シニア層と一括りにしてもさまざまな志向を持っている消費者が多いことがわかりました。再調査では、シニア層は意にも自由に好きなものを食べていることがわかり、健康に気を遣いつつも、食事に対する美味しさや質を追求していることを新しいインサイトとして定義しました。それを受けて、健康志向にプラスして、本物の味を熟知しているシニア層に向けて美味しさとプレミアム感のある味付け、商品名をつけました。「カップヌードルリッチ」は年齢の先入観に捉われず、顧客インサイトを再調査したことで生まれたヒット商品となりました。

マーケターに必要なスキルは、マーケティングトレンドへの理解、デジタルテクノロジーへの知見があるに越したことはありません。しかし、本質的な部分でマーケティング人材に求められる役割は「正しい順序で戦略を構築すること」「顧客インサイトを深く理解すること」の2点であると考えます。

マーケターの育成を促すためには

HOWに特化したマーケターの増加

デジタルチャネルが増えていく中で、多様化する環境に対応する形で企業は、マーケターの業務を細分化していく流れができました。更にHOWを中心としたデジタルマーケティング全体から分業化を図った結果、市場を創造し勝ち筋を構築していく事が目的である従来のマーケターと比べ、HOWに特化した広告運用担当、SEO担当など限られた分野で専門性の高いマーケターが生まれる状況になりました。そのため、世の中で言う「マーケター」の定義は企業によって変わってきています。
デジタルの多様化によって、ある分野で専門性の高いマーケターが増えた結果、マーケター自身にとっても、キャリア構築やスキルの生かし方に悩みを抱える要因になっており、採用市場ではマーケターのスキルを見極める難易度が上がっています。傾向として、包括的にマーケティングを行える人材は希少価値が高く、Webコンテンツや広告運用など施策の一つに特化している人材が多く見受けられます。これこそがマーケターの人材育成を妨げている課題なのです。

マーケティング市場には、特定業務の担当から特定領域に詳しいスペシャリスト、統合的にマーケティングを見ることができるブランドマネージャー、さらにマーケティング全体の責任者(CMO)まで、さまざまなステージの人材がいます。特定の分野の知識しかないマーケターが増える中で、キャリアアップをするためには、業務が細分化される中でも企業が目指す目的に対してどのように戦略を描き、その戦略を顧客に価値として提供するために必要な手段を考え、推進・実行していける人材になる必要があります。さらに言えば、ビジネスパーソンとしての高い素養、組織人としてのコンピテンシーを兼ね備えていれば尚良いでしょう。

マーケターの育成を促す方法

・求めるスキルを可視化

単にマーケターといっても企業によって求める要件は変わってきます。ここで大事なのは、自分たちがどのようなマーケターを育成したいのかをしっかり見極めることです。そして、HOWだけが先行しないよう目的意識や、WHO・WHAT・HOWの考え方を徹底して身につけられるよう育成を進める必要があります。必要なスキルセットが定まっていないが故に何を教えたら良いかわからないような状況を作らないために具体的にどんな人材を求めているかを定義していきます。
まずは、マーケティング戦略の全体像からどの部分を育成していきたいのかを可視化していきます。

※認知拡大のスキルを強化(育成)したいケース

その後、具体的に必要なスキルをマップ化することで、どんなスキルがあって、どんなスキルが足りないのかがわかりやすくなります。合わせて、ビジネスパーソンとして必要なビジネススキルや組織人としてのコンピテンシーにも言及していきます。この取り組みは、社内育成だけではなく、採用活動においても活用することができます。
スキルの有無に関しては、各スキルマップの項目を「人に教えることができる」「一人で業務を遂行できる」「他者の協力を得ながら進められる」「未経験」の4つの視点で判定します。

・外部人材のスキル・知見をシェア

マーケターの育成を阻害する要因は、育成リソースの不足ということも大きくあげられます。指導者となる社員が日々の業務に追われており、OJTがスムーズに行われないケースが考えられます。この場合、「多岐にわたるマーケティング業務をカバー」し、「社内人材のベーススキルをアップする」という2つの要素を解決するために、優秀な外部人材の知見をシェアすることはとても有効な方法です。
これまでは社内の人材をどう採用するか、育成するかを考えるに留まっていました。しかし、人材不足や業務の多様化によって、採用や育成がなかなか進まない課題に対して、正社員という枠組みにとらわれず、外部人材を活用し組織を活性化していく考えは、この数年で着実に広がっています。それに伴い、外部人材との関係性は発注・受注する単なる委託ではなく、正社員と同じようなコンピテンシーやコミュニケーションをとって組織に馴染みながら業務を遂行してもらうことにあります。

このように優秀な外部人材を迎え入れるなど雇用形態を柔軟にする取り組みによってプロジェクトを進められると、マーケティング手法の多様化による業務逼迫の課題を解決する第一歩になります。そして、ナレッジが共有されることによって、社内人材のスキルアップが期待でき、業務の質が高くなる可能性が高まります。外部人材を巻き込んだチームビルディングが実現できれば、社内人材は勤務時間内に実務を通してノウハウや知見を効率的に身につけることができます。
また、新型コロナウイルスの流行によって、テレワークが急速に進んだ結果、場所にとらわれず全国の優秀な外部人材を活用する動きも生まれています。テレワーク環境の向上と低コスト化によって、自社に常在する社員でないと信頼・安心できないという時代ではなくなったことから、従来の外注(アウトソーシング)的な「タスク型」の仕事から、中長期的に主体性を持って携わる「プロジェクト型」、 社員と同等の帰属意識や責任を持ち同じ目線で働く「ミッション型」の仕事へと、外部人材の活躍に目を向ける企業はより増えていくと予測します。

マーケティングリテラシーは全職種が持つべきスキル

マーケティングスキルは、マーケターだけではなく、顧客理解という観点では、直接顧客と接している営業やカスタマーサクセス、店舗スタッフなどにも応用されます。今や全職種でマーケティングスキルは必要だといっても過言ではないと考えます。「マーケティング思考」は、生産性の向上や日常の業務、営業活動などはもちろん、ビジネスマンとしての行動全体にもかかわる重要な考え方です。近年では、採用、人事、研究開発などの事業活動において取り入れられることも増えており、まさに現代のビジネスマンにとって必須となりつつあるスキルといっても過言ではありません。全社でマーケティングリテラシーを身につけて事業に取り組んでいくことが理想です。

まとめ

市場価値の高いマーケターであるためには、厳しい環境禍の中でも成果をあげていくための人材へと成長していく事が必要不可欠です。今後は、一部のHOWのみに特化したマーケターはAIの進化に伴い、どんどん淘汰されてしまいます。社内でスキルアセスメントや、キャリアマジメントを徹底して行うことで、マーケティングにおけるキャリアアップを実現し、スキルを磨くことができます。マーケターを育成したいが社内で体制が用意できない場合には、外部のプロフェッショナル人材に参画してもらい、ナレッジを社内に植え付けてもらうという方法もあります。
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