経営幹部に求められるトップマネジメントの本質とは?

経営幹部に求められるトップマネジメントの本質とは?

これまでの当たり前が通用しないほど変化が激しい時代のもと経営幹部は組織にとって最適な意思決定をしなければいけません。未来の予測は難しい時代においても企業を取り巻くステークホルダーに利益をもたらし、社会全体に共感を得る経営をしなければいけません。この記事では、経営幹部のミッションや経営者のタイプに合わせた体制構築について紹介します。

経営幹部を教育するという発想は間違い?

経営幹部は教育されなくとも磨かれた専門性で成果を出せることが前提

経営幹部になる人材はすでに備わっている高度な専門的知識や技術などの強みを生かして経営に携わっていきます。そういった意味で経営幹部は、現場で経験を積み、マネジメントの役割を果たしながらも自分の専門性を磨いてきた人材だということを前提として経営幹部のメンバーになったと定義します。つまり、経営幹部のスキルは組織を越えて会社内で広く通用するものであり、所属企業や役職を全て外しても専門家として生きていける人材レベルだということです。そのため、すでに教育が施される立場ではなく、自らの専門性を生かして教育を施す立場にあります。

これまでの企業は社内での異動や配置転換によるメンバーシップ型の組織運営をして内部人材でなんとか凌いでいきました。しかし、最近ではジョブ型雇用が浸透しつつあるので、中途採用の比率を増やす企業が増えています。足りない専門人材は社外で探す動きが加速しており、人材の流動化は社外へと広がっています。外資企業では、すでにジョブ型の組織運営がベターとされていますが、日本企業においても職種の細分化や雇用の考え方の変化に伴い、専門性を基準とした採用に移行している企業が増えています。つまり、社内で順調に昇進し、管理職であっても必ずしも市場価値が高いということではない時代になっているということが言えます。肩書きに頼らず組織を超えて通用するスキルを持った人材こそが経営に必要な人材価値があるとみなされます。

経営幹部の役割とは

経営幹部の最大ミッションは部門目標の達成に向けて組織運営を適正化していくことです。経営幹部の役割を「経営戦略」「組織戦略」「人材育成」の3つに分けて紹介します。

経営戦略

テクノロジーの発展や社会の変化に伴い、企業経営を取り巻く環境は複雑化しています。変化が絶えない中でも組織の舵取りをする経営幹部はミッションを遂行し達成させなければなりません。DX推進が加速する時代においては、IT業界に限らずあらゆる業界が共創し、産業構造全体がデジタル化するとともに新たなビジネスの可能性を最大化しています。そして、消費活動の軸は、商品・サービスの価値から体験価値へと移り変わり、企業は顧客体験を取り入れた事業戦略に向けてスピード感を持って改善や意思決定をしていく必要があります。
一方で、市場競争によってもたらされた環境破壊や格差など社会的な負に対しても企業は責任を持たなければいけません。最近では、CSR(企業の社会的責任)活動を事業や取り組みに盛り込んだメッセージを打ち出す企業が増えています。社会全体で「持続可能」というワードを重視する傾向にあるように、自社の利益ばかり追求するビジネスから脱却し、社会課題解決と利益の両立を図る経営を目指す時代になっています。

組織戦略

国をあげて取り組まれている働き方改革によって、組織経営においても、企業は変革を迫られています。終身雇用や年功序列といったこれまで築き上げた日本の雇用システムは崩れ、一社に一生働き続けるという常識は徐々に淘汰されつつあります。また副業の解禁やテレワークの浸透などに伴い、働くことへの主権は企業から個人へ移行し、企業は個人に選ばれる会社として本質的な部分で従業員の幸福を考え実行する姿勢を見せなければいけません。若手の経営幹部への抜擢や、副業・フリーランスの活用、リモートワークの導入など労働力人口の減少に伴い、働き方の柔軟性がそのまま企業の戦力に反映される時代です。時間や場所、雇用形態に縛られず、価値あるアウトプットを生み出し続けるには、働き手のキャリア自立を促し、主体的に仕事に取り組むことができる人材を多く集めることで企業を強くします。働く人の価値観の多様化はマネジメントを複雑にしますが、イノベーションの創出など競争力の源泉として不可欠なものです。一人ひとりの働きがいにフォーカスし、心身の健康とパフォーマンスの発揮を後押しすることも、経営幹部の大きな役目といえます。

人材育成

人材育成はさまざまな体験ができる成長環境を与えることにあります。仕事で成長するために何からどのくらいの割合で学びを得るのかを示した「7・2・1の法則」では、7割は現場での経験、2割はマネージャーからの助言やフィードバック、残りの1割を研修や読書などのトレーニングと言われている通り、成長する源は、経験機会をどのように与えるかが肝になります。
経営幹部を含めたリーダーにとって重要なのは、「権限委譲すること」です。現場の社員に裁量を与え、高度な仕事を任せることで、部下の責任感とモチベーションにつながり、大きな成長を遂げるきっかけとなります。これまで上司がどのような考えで指示や判断を行ってきたのかを深く考えるきっかけにもなるため、その結果マネジメント能力が身につくことも期待できます。権限委譲を行うことは、社員一人ひとりの能力や才能が開花することが期待できます。入社年数が浅い社員であってもチャンスを与えることで能力を見極めるきっかけとなり、組織の適正な人材配置が実現します。結果として、組織内のリソースを最大限に活用することができ、生産性向上につながります。

組織を推進する経営幹部に求められる素養とは

明確なビジョンを示し実行に移す力

経営幹部は組織の方向性を決め、明確なビジョンを持って経営に取り組む必要があります。顧客や株主、社会などあらゆるステークホルダーに共感を得る企業となるためには、組織の原動力となる社員にビジョンを浸透させ、全社でビジョンに合った行動を示していくことが重要です。グローバル化やダイバーシティに対応する組織を実現するためには、異なる体験やものの捉え方をする人たちと共創するということです。そのため、ビジョンは言語や世代の違いを越えても共感できるようシンプルなメッセージを打ち出す必要があります。
グローバル企業として成功したファーストリテイリング(ユニクロ)のブランディング戦略では、他国に比べて民族や言語の多様性が少なく同一言で意思を共有しやすい日本文化に捉われず、世界を見据えて、カルチャーや言語が違っても自社のビジョンが伝わるようシンプルさを徹底しました。誰がみても伝わりやすいブランドコンセプトでユニクロのブランド力は世界中で浸透しています。

ヒューマンスキル

企業の文化醸成は、良くも悪くもトップマネジメントを行う人間の素養や思考が反映されるものです。経営幹部のビジネススキルやセンスはもちろんのこと、人としての信頼感や魅力がなければ従業員はついてきません。経営幹部には言行一致が求められ、明確なビジョンや誠実さ、高い倫理観に加え、感情論ではないトップマネジメントが必要です。働き方改革やグローバル化によって多様な人材へのマネジメントが必要とされる現代では、さまざまな価値観や考えを持った相手の意思や感情を解像度高く理解し、コミュニケーションを取っていかなければなりません。相手に気付きや自発的な行動の促しをもたらしながら、目標の達成や成果の創出に向けてトップマネジメントを発揮するスキルが求められます。

常識を問う力

近年、あらゆる業界で成熟化が進んでおり、商品・サービスは簡単に売れない時代になっています。コモディティ化が進み、消費者にとっては機能や品質の差がない商品が多く並び、その結果として価格競争につながっています。加えて消費者のライフスタイルや購買行動の変容によって、顧客に対してこれまでとは異なる新たな価値を創り出して提供しなければ企業は生き残ることはできません。このような時代において経営幹部に求められるのが、これまでの常識を問うスキルです。これまで業界で常識とされてきたことは果たしてこれからも通用するのかを追求することで、企業としての新たな価値やイノベーションが生まれるきっかけになります。

個々の強みを生かした経営体制づくり

経営者には出身業界やこれまでの経験によって得意分野・不得意分野が存在します。会社をうまく回している経営者は自分の得意分野・不得意分野を冷静に把握し、自分の能力を補えるチーム構築をする必要があります。トップマネジメントを行うにあたって、経営者がまず向き合うべきことは、経営チームを構成し、相互補完的関係を築くことで組織のトップ層を一枚岩にまとめることです。
経営者の右腕の存在(経営幹部)はチーム力を飛躍的に高めるものであり、孤独な経営者のビジネスパートナーとして力を発揮してくれます。右腕となる経営幹部を探す段階で気をつけたい点は、自分と似たような人材を選ばないことです。思考が似ている人材は、意思疎通がしやすい相手ですが、チームとしてのパフォーマンスを考えると右腕となる人材に必要なのは同質ではなく異質です。お互いの得意分野を発揮しながら苦手な部分を補い合う相互補完的な関係であることが大切です。相互補完的な人を選ぶためのポイントは、まず自分がどのようなタイプかを知ることから始まります。
企業コンサルティングを行う浜口隆則氏の著書「『成功の型』を知る起業の技術」では、経営者のタイプを3つの切り口で分類しています。

1.起業型・企業型・官僚型(能力)
0→1をつくるのが得意な起業家タイプか、1→10が好きな企業家タイプか、10を維持していくことが好きな官僚タイプか

2.開発型・営業型・管理型(専門性)
経営のパフォーマンスを決める3つのスキルのうちどの分野が得意か

3.IQ型・EQ型・RQ型(パーソナリティ)
ビジネスセンスや知識に優れているIQ型か、人付き合いが上手く人間関係の構築を得意とするEQ型か、経営資源の分配や有効利用が得意なRQ型か

このうち、本田やソニーなどグローバル企業になるまで成長した組織には以下の組み合わせによるパートナー関係が必ず存在していたとされ、創業期から成長期の経営チームのベターな組み合わせとされています。

・起業型+企業型
→「ビジョンに向かってメンバーを動かすことが得意な起業家」+「ビジョンを具体的な計画に落とすのが得意なNo.2」=可能性のある大きな事業が描ける

・開発型+営業型
→「エンジニア出身者」+「豊富なビジネス経験のあるCxO」=プロダクト開発と事業のバランスが取れる

・IQ型+EQ型
→「センスに優れ攻めるのが得意な起業家」+「対人コミュニケーションが得意なリーダー」→事業推進役と交渉役で役割分担ができる

【経営者のタイプ別】求められる体制づくり

上記の3つの切り口を元に経営者のタイプ別に求められる経営組織の体制について考察していきます。

①0→1フェーズ(新規立ち上げ)が得意な場合

経営者のタイプ:「起業型(0→1が得意)」+「開発型(エンジニア出身)」+「IQ型(センス知識に優れている)」
0→1が得意な経営者は実質的にプロダクトづくりの構想段階から開発、効率良く且つ効果的に問題解決からPMFまでたどり着くことを得意分野とします。
経営者は大きなビジョンを5年、10年、15年かけてでも“自分が”成し遂げたい・成し遂げるべきものを具体的なプロダクトに落とし込み自らのスキルセットで形にする実力があります。
そのため、その経営者の右腕は、「企業型(1→10のPMFが得意)」+「営業型(ビジネス経験が豊富)」+「EQ型(対人コミュニケーションが得意)」を兼ね備えた幹部人材が右腕の存在として良いでしょう。上記のような経営陣の組み合わせは、創業期のスタートアップ企業で見られる組み合わせです。

②1→10フェーズ(PMF)が得意な場合

経営者のタイプ:「企業型(1→10のPMFが得意)」+「営業型(ビジネス経験が豊富)」+「EQ型(対人コミュニケーションが得意)」
このタイプの経営者は、マーケター出身者などスピード感を持って戦略を実行していく力があります。事業や組織を大きくしていくことを得意分野としているので、その事業や組織を0から立ち上げることを得意としている「起業型(0→1が得意)」+「開発型(エンジニア出身)」+「IQ型(センス知識に優れている)」を兼ね備えた幹部人材が右腕として適しています。

③10→100フェーズ(組織マネジメント)が得意な場合

経営者のタイプ:「官僚型(維持することが得意)」+「管理型(守りが考えられる堅実なCFOタイプ)」+「RQ型(経営資源の分配や有効利用が得意)」
このタイプの経営者は、プレイヤーとして現場に出るというよりは、組織全体を俯瞰した組織マネジメントや財務管理などの経営判断に優れています。また、経営陣のサポートのためにも、経営管理部門の強化や、コスト管理から製品に特化した原価管理部門の新設、人事管理など組織変革にも寄与できる人材です。しかしながら、現場の統率やリーダーシップといった面では弱いので、現場実務は人を雇って事業を行っていくスタイルがベースになります。
そのため、既存事業を拡大しつつ、0から事業を創出できる幹部人材の支えが必要なり「起業型(0→1が得意)」+「開発型(エンジニア出身)」+「IQ型(センスや知識に優れている)」や、「企業型(1→10のPMFが得意)」+「営業型(ビジネス経験が豊富)」+「EQ型(対人コミュニケーションが得意)」など複数タイプの幹部人材の存在が必要となります。

④-1→1フェーズ(トラブルシューティング)が得意な場合

経営者のタイプ:「官僚型(維持することが得意)」+「管理型(リスクマネジメントが得意)」+「EQ型(人間関係の構築が得意)」
トラブルシューティングを得意とする経営者はCS思考が強く、顧客への信用離反を解決する能力が高いです。CSは日々の業務で様々な顧客とのトラブルが発生した際スピーディーに原因究明し解決することが求められます。そのため、常日頃からトラブルシューティングを想定し未然防止策と対応策を用意しています。予想範囲外で起きた場合にも過去に直面した経験を元にした解決策を持ち合わせています。このタイプの人材は、傾きかけている既存事業の立て直しなど全体像を把握しスピーディーに問題解決に導くスキルに長けていることから組織運営に欠かせない存在です。
しかし、このタイプの経営者は、グロースしていく面が弱いので「企業型(1→10のPMFが得意)」+「営業型(ビジネス経験が豊富)」+「EQ型(対人コミュニケーションが得意)」を兼ね備えた人材が右腕として相互補完的な役目を果たしてくれます。職人肌でトラブルシューティングが得意な経営者とPMFの得意なビジネスマンがタッグを組むことで基盤の強い組織づくりが目指せます。

まとめ

経営幹部には、ビジョンを実現するための基幹事業の拡大、新規事業の立ち上げ、組織のパフォーマンスを最大化するための人材育成が求められます。また、組織運営を適切に行うための財務管理やトラブルシューティングへのリスクマネジメントなど多岐にわたる業務もトップマネジメントに求められる役割です。経営幹部が個々に持つ専門性を生かすことで強い組織を実現できます。

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