DX

DX実現のプロセス

2021/07/20

「DX」という言葉を様々な場面で見かけるようになりました。これまでも「IT化」「クラウド化」「デジタル化」「オンライン化」「デジタイゼーション」など似た言葉はたくさんあり、「インターネット・テクノロジーをもっと活用していこう!」という動きは、周知の通り今に始まったことではありません。

しかし「DX」の定義はこれら従来の文脈とは明確に異なります。

コロナ禍によって「DX」を余儀なくされた業界の方は肌身で感じられるかと思いますが、DXとは「作業のIT化」ではなく「ビジネスモデルの変革」を意味します。正解がない上に多大なエネルギーを必要としますので、「一体何から手をつけたらいいのか、、、」と悩んでいる方はこのブログを読んでいる方の中にも少なくないのではないでしょうか?

本コラムでは「DX」を成功させる為に必要な最低限の知識から陥りがちな失敗例、成功例、改善プロセスまでをあげていきます。自社にはDXが必要なのか、必要であればどのように実践すればいいのか、ぜひ一緒に考えながら読み進めてみてください。

Contents

1.DXとは

「DX」は広義や狭義で定義が若干異なりますが、今回はビジネスシーンで用いられる際の「DX」について言及していきます。

「DX」を正しく理解するためには英単語を切り分けて意味を捉えるのが近道です。 
「DX」は「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略語からきています。
この「トランスフォーム」が味噌です。「トランスフォーマー」という映画をご存知の方はイメージがしやすいと思いますが、「トランスフォーム」という言葉には「形がすっかりと変わってしまうほど大きく変化する」という意味があります。映画では車がロボットに変身していましたが、まさにあのイメージです。

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※余談ですが「Digital Transformation」の略語なのになぜ「DT」ではなく「DX」なのか?という疑問をよくぶつけられるので触れておきます。最も有力な説は「trans-」が「across」と同義で、このacrossを「X」と略すことが多いことから「DT」ではなく「DX」になったというのが有力な説のようです。「across」にも「端から端まで完全に」という状態の変化に対して強い意味合いがあります。
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デジタルトランスフォーメーションの正しい定義

では、これを企業のDXという文脈に当てはめてみましょう。
企業にとって「DX」とはデジタル技術を使ってビジネスの形をすっかりと変えてしまうほど大きく変化するという意味合いになります。作業をIT化することだけがDXではありません。「DX」を進めるにあたって作業をIT化することはファーストステップとして必要不可欠ですが、顧客がサービスを利用する際の利便性を向上させ、競合優位性を勝ち取るためにデジタル技術を活用したビジネスモデルに変革をしていくことが重要です。

何のためにDXをするのか

2021年秋にデジタル庁を発足しようと日本政府も本腰を入れて「DX」に臨んでおりますが、そもそもなぜそのような労力のかかる変革をしなくてはならないのでしょうか?

「今のままでよければそれが一番なのだが、、、、」と内心思いながら情報収集をしている方もいらっしゃるかもしれませんので、触れておきます。

デジタルテクノロジーの隆盛

総務省のデータによると、2019年の段階で個人のインターネット利用率は約9割に上ります。


(出典)総務省「通信利用動向調査」

今や小学生から年配者までスマホやPCなどデジタルデバイスに触れ、買い物、決済、スケジュール管理、コミュニケーション、学習、出会い、集団形成など、日常生活におけるあらゆる側面にデジタルが浸透するようになりました。辞書はスマホで、地図もスマホで、マッチングもアプリで、あらゆるものがデジタル上で解決可能になっています。パンデミックが世界を席巻したこともあり、デジタル技術を活用した生活様式は今後益々人々から求められるようになるでしょう。それに合わせて我々企業サイドも「デジタル」を通じた価値提供をしていけるよう変容していく必要があるということです。

DXに成功した外資系企業の市場支配

上記に挙げたような辞書や地図などのあらゆるデジタルシフトは誰によって提供されたものなのか?改めて思い返すとほとんどが外資系企業によるものだとお気づきになると思います。
今、我々が教授しているデジタルの恩恵はほとんどが外資系企業によって作り出されたものといっても過言ではありません。

スマホ→apple、google、etc
SNS→Youtube(google)、twitter、instagram(Facebook)、tiktok、etc
検索→google
地図→google

外資系企業に市場を支配されると国内のお金が外国の企業に回ります。こちらは1995~2015年までの20年間を通した経済成長率ランキングですが、世界平均+139%のところ、日本の経済成長率は-20%でした。


近眼私的な観点で見ればマクロな経済状況が一企業に及ぼす影響はそこまで大きくないかもしれません。しかし、国内にお金が回らなければ労働者1人1人の賃金は低下していきさらに市場が冷え切っていくため、長期的に経営を継続していくという観点から見れば企業としては抑えておきたいポイントです。裏付けとして実質賃金指数の国際比較推移を見てみましょう。日本人の実質賃金指数が減少傾向にあることが分かります。


しかしここでお伝えしたいことは決して悲観的なことではありません。
後述で事例をご紹介しますが、ダイナミックなDXに成功した企業が市場に求められているのであれば、国内で競合がDXする”前に”動き出せばまだまだ差別化が図れるということでもあります。
インパクトを起こせるダイナミックな変革をいかに推し進められるかが鍵となりますので、打ち手を練り込み、市場を魅了するサービスを設計していきましょう。

市場ニーズの変容

デジタル技術により向上した利便性に慣れてくると、市場は従来のサービスにストレスを感じるようになります。
例えば、新聞紙で情報をキャッチアップしていた方がオンライン新聞購読に切り替えると、これまで感じなかった古紙が溜まるストレスや小さな字の読みづらさを感じるようになります。
地図を見ながら車の運転をしていた方が衛星MAPに切り替えると、わざわざ一時停止して場所を確認するストレスや区画整理によってあるはずのない道に出くわし困惑するストレスを感じるようになります。
ここで大切になるポイントは、今提供しているサービスの”何を”デジタルに置き換えれば顧客がより喜んでくれるのかを想像し、先手を打ってDXを推し進めていくことです。
全てのDXはこの「想像」から始まります。(後述、DXの4P)
例えば、洋服を買う際に何店舗も回って試着を繰り返して買うのは面倒→事前にオンラインで試着し、取り置きができるような仕組みがあればより楽に買い物を楽しめるのではないか→オンライン試着サービスを開発。
というような流れです。ここの詳しい流れ、スキームの作り方は後述で解説いたします。
「DX」とは企業が企業の為に作業をIT化することではなく、企業が顧客のためにデジタルを使って何ができるのかを模索することが重要なポイントです。顧客ニーズに合わせてビジネスモデルをデジタルトランスフォーメーションしていくことを常に意識しましょう。

2025年の崖

DXについて情報収集をされている方であれば「2025年の崖」というワードを一度は目にしたことがあると思います。これは経産省が2018年に発表したレポートで、端的に申し上げると「DX推進がこのまま行われなかった場合に生じる経済損失」について言及されています。このままだと2025~2030年の5年間で12兆円の経済損失が生じ、企業はグローバル競争に勝てなくなるだろうと言われております。
その最も大きな原因とされているのが、レガシーシステムと呼ばれる老朽化したシステムによるものです。2025年には21年以上稼働しているレガシーシステムが全体の6割を超えると言われております。
日本経済におけるIT業界の特徴として、ITエンジニアリングに長けている人材は受託支援サイドに属していることが多いため、事業主サイドの企業が自社で充分なメンテナンスを行うことができずにシステムの中身が誰も分からない状態になる(ブラックボックス化する)傾向が高くなります。

(出展:マッキンゼー)

老朽化したシステムを稼働させ続けるには多くのコストと人的リソースが必要となるため、新しい技術にIT予算を組めず現状維持が続いてしまい競争力が落ちていくことで大きな経済損失が生じるという流れです。
ここでのポイントはビジネスモデルの変革というより、土台作りの内側にベクトルが向いたDXになります。特に大きな企業だとシステム刷新に数百億円はかかると言われておりますが、長期的に被る機会損失を考慮すると早めに手を打つべき重要事項です。自社のシステムはレガシーシステムに該当しないか、該当する場合はいかにして自社システムを刷新する動きをいち早く取れるかを検討していきましょう。

何のためにDXをするのか?に対しては上記のように様々な角度から複合的に判断することができますが、一企業の生き残り、強いては事業拡大にフォーカスをあてると、2021年現在においてDX推進は急務であるということがお分かりいただけたかと思います。

3.誤ったDXの定義

DXにはフェーズがあります。
業界ではDX1.0 / DX2.0と区別をすることが多く、事業の核となるのはこのDX2.0のフェーズです。
DX1.0は「設備のデジタル化」にあたるフェーズで、主に上述したようなレガシーシステムの刷新や、テレワークの導入、ペーパーレス促進、アプリケーションの活用、MAやSFAなどのデジタルツール活用など、あらゆる設備をデジタル化するフェーズを指します。DXをする上でのファーストステップ、土台作りをしていく段階です。
DX2.0は「顧客ニーズに直結するデジタル活用」にあたるフェーズです。DX1.0で整えたデジタル環境を駆使して顧客にどのような価値、ソリューションを提供していくのか?というマーケティング戦略を策定 / 実行していく段階です。
この段階ごとで必要なスキルが明確に異なります。
DX1.0までであれば「デジタル・IT」のスキルさえあれば刷新が可能なのでIT部署に丸投げでもさほど問題はありません。
しかしDX2.0は「デジタル・IT」「組織経営」「マーケティング」全てのスキルを求められるのでそうはいきません。近年、外資系企業ではCDO(Chief Digital(data) Officer)という役職者が増えました。DXをスムーズに行っている米国企業では外部から優秀なCDOを顧問として迎えいれる動きも活発化しているので、外部から顧問を雇い入れる動きは選択肢の一つとして検討してもいいかもしれません。
ここで私が声を大にしてお伝えしたいのは、DXは1.0→2.0まで推進して初めて意味を成すということです。以下で誤ったDXの定義・事例をご紹介していきます。もしも当てはまっていたら次のDXステップに進むタイミングかもしれませんので、読み進めてみてください。

 

ツールを導入するだけで使いきれていない

これが最も多く見る事例です。とりあえずDXをするために自動化ツールを導入して作業を効率化しよう!という試みですね。試み自体は非常に素晴らしいことなのですが、ツールを導入するだけ導入して使いきれずに終わってしまうという事例をよく見かけます。
BtoBマーケティングだとMAツール、SFAツール、CRMツールなどが一般的です。簡単に特徴をご紹介しますので、これから導入を検討されている方は再度特徴をご確認ください。

・MAツール(マーケティングオートメーション)
MAツールは資料ダウンロードの有無やサイト回遊時間、サイト訪問回数などから見込み顧客の興味度を数値化(スコアリング)して営業アプローチを最適化するためのツールです。一言で言えば簡単そうですが、スコアリング設計の精度、興味度合いに合わせたアプローチ設計の精度、コンテンツ制作の精度、仮設検証(PDCA)の精度など、見込み顧客の引き上げに必要なスキルは非常に専門性が高いです。加えて、MAツールを活用したマーケティング自体がまだまだ近代的なものなので、MAに明るい人材が社内にいないという課題もよく耳にします。このような状態で走り出すと、結局難しくてよく分からなかったため二度とMAに手を付けないという事態にもなり兼ねないので注意が必要です。

・SFAツール(セールスフォースオートメーション)
SFAツールは営業強化に特化した支援ツールです。案件管理と営業の可視化、主にこの2軸の機能で営業の効率化を図ります。通常、各営業担当が自身の案件を自ら管理し追客を行っていくというのが一般的ですが、案件数が増えてきたときに1人で管理していると漏れが発生して機会損失を生むリスクがあるため、これをチームで一元管理化することで未然に防ぎます。また営業マンのスキルが属人化してしまうと退職と同時にノウハウを失ってしまうという課題もSFAで解決することが可能です。商談を動画に残して管理することで、ノウハウの蓄積や部下のマネジメントにも役立ちます。MA、CRMに比べるとSFAは扱いやすいですが、その分データ入力をするだけのルーティーンに陥りがちな側面も持っているため注意しましょう。

・CRMツール(カスタマーリレーションマネジメント)
CRMツールは既存顧客との関係値を良好に保ち、アップセルクロスセルでの売上拡大を最大化させるツールです。主に顧客情報の管理や優良顧客か否かのスコアリングに役立ちます。こちらはMA同様、各顧客ごとにさまざまな角度からの分析を行い、それに伴った臨機応変な対応が求められるのでBtoB営業の実践経験、スキルが求められる領域です。MAと異なる点としては既存顧客の情報管理ツールなので、マーケ視点を意識して活用しないと気が付いたら情報入力のためのメモ帳としてしか使いこなせていなかったという状態に陥りやすいです。アップセルクロスセルでの売上獲得は新規獲得の5分の1のコストでできるという大きなメリットがあります。既存顧客数が多い場合は導入をオススメしますが、充分に使いこなせなかった場合の機会損失も大きいため、担当者は慎重に選びましょう。

ツール導入の目的は「売上の拡大」であり「作業の効率化」はそのための手段でしかありません。「ツールは使いこなし、利益につなげてなんぼ」です。DXだ!という意気込みで準備が整わないまま何となく導入をしてしまうと失敗に終わる傾向が高いですが、使いこなせればとても強力な武器になります。導入の検討は着実に行いましょう。

 
 

デジタル化して満足してしまう

デジタル化、すなわちDX1.0をして満足してしまうパターンです。具体例をあげて見ていきましょう。

従来のアナログ DX1.0 DX2.0
辞書 紙媒体、重い、
検索に手間がかかる
検索エンジン活用 AI活用で関心の高い
トピックを精査して
訴求
地図 紙媒体、重い、
現在地確認に手間がかかる
衛星MAP活用 現在地周辺の
店舗情報や
評価の一覧化
マッチング 交流会、時間とお金と労力がかかる、
出会える人が限定される
オンラインアプリ活用 趣味や属性などの
セグメント分け→チャット機能を
付帯し気軽にコンタクトが可能

DX1.0は従来の仕組みをデジタルに置き替える「設備をデジタル化する」フェーズ、
DX2.0はデジタル化した設備を駆使して「顧客に新しい価値を提供する」フェーズ、
だということが具体例を見ると分かりやすいかと思います。
DXの最終目標は「顧客を魅了すること=DX2.0」であり「デジタルに置き換えること=DX1.0」はあくまでそのための手段にすぎません。
DX1.0で取り揃えた設備環境を活用して、従来では提供できなかった価値をいかに提供していくのか、従来では解決できなかった課題をいかに解決するのか、今取り組もうとしているDXは顧客への新たな価値提供に繋がっているのか、常にこの意識を持って改革に臨む必要があります。

 

明確なゴールのないDX声明

CDOの文脈で前述したように、DXをスムーズに推し進めるには「デジタル・IT」「組織経営」「マーケティング」に精通した人材を確保する必要がありますが、そのような人材が社内にいるというケースは決して多くはありません。この状態で見切り発車をしてしまうときよく耳にするのが「とりあえずDXだ!」というような非常にふわっとした声明です。誰が何をするのか明確になっていないまま声明だけが出されるので、結局何も変わらないという事態に陥る、またはIT部署に丸投げされて目先の作業をIT化して終わってしまうという事態に陥りがちです。そのような際は以下のステップを踏んでください。
DXを推し進める際にまずやるべきことは「想像」です。顧客が潜在的、顕在的に求めていることを探り、DXで解決可能な課題を定義することから始まります。すなわち、顧客への価値提供を前提としたDXを行っていくためには、DX2.0からの逆算なしにはDX1.0を推し進めることはできないということです。
社内で「とりあえずDXだ!」という言葉を耳にしたら、「今解決できていない顧客の課題ってなんだっけ?」「その中でデジタル技術を活用して解決可能な課題は何だっけ?」という問いを投げかけてみてください。その糸口さえ見つけられればあとは必要な要素を取り入れていくだけです。DX推進に熱がある方は日本企業にとって非常に貴重な存在なので、明確なゴールのないDX声明が発令されたら「チャンス」だと捉えて、その方と共により顧客により喜ばれる企業へと勇気を持って変革に臨まれるとよいかと思います。

4.あるべきDXの定義

次にあるべきDXの定義について記載します。
前提としてDXには様々な捉え方があり決まってこれが正解というものはありませんが、確実に抑えておかなければならないポイントはいくつかありますので、ご紹介していきます。

 

マーケティング視点を伴っている

ここが最も重要なポイントです。
DXのスタート地点は「デジタルを活用した課題解決」ですので、あるべきDXの定義には必然的にマーケティング視点を伴います。注意すべきなのは、日本経済全体で見る「マクロ視点でのDX」と一企業が顧客に対して提供する価値を変革していく「ミクロ視点でのDX」を切り分けて考えることです。
上述した「2025年の崖」のレポートは日本経済全体をまずはDX1.0していこうという「マクロ視点でのDX」における議論になります。日本政府のミッションはレガシーシステムの刷新による経済損失を未然に防ぎ、日本企業のグローバル競争力を高めることです。
一方、一企業がDXする際に目を向けなければならないのは顧客に提供する価値の向上です。一企業がシステム刷新や作業のIT化「から」取り組んでしまうと、最も目を向けなければならない市場ニーズ、顧客ニーズに直結しないDXをして満足してしまい、DX2.0に成功した外資系企業にいつの間にか顧客を奪われてしまう可能性が高まります。
デジタル庁の平井大臣も「Government as a start up」と謳い、「スタートアップ企業を立ち上げるつもりで徹底した利用者目線を基本とする」と言っていましたが、常に顧客目線でDXをしていく意識をもつことが大切です。

 

ビジネスモデルを変革する

冒頭で、DXとは車がロボットに変身するようにすっかりと姿を変えてしまうほどの変革を遂げることであると述べました。
日本マクドナルドはこのビジネスモデルの変革に成功した一例です。当社は20年4月19日から5月14日にかけて全国の全店舗(約2900店舗)の客席利用を中止にしました。通常であれば5月の売上は大ダメージを受けてしまいそうですが、なんと売上高は前年比15.2%増し。
コロナ禍で飲食店が軒並み営業自粛になる中、スーパー帰りに家族分のご飯を買って帰ろうという層をドライブスルーで拾い上げ、売上を増大させたという背景があります。
これは決して棚ぼたではなく、コロナ以前より推し進めていたDX施策がコロナ禍による非接触の需要拡大に売上が比例拡大した結果と言えます。
マクドナルドが推し進めていたDX施策は大きく2つあります。
1つ目は、事前モバイルオーダー&事前決済システムの活用です。事前に注文と決済を済ませ、あとは指定時間に取りに行くだけで商品を購入できる仕組みを19年4月より試験導入し、20年の1月から全国導入しました。
2つ目は、オンラインデリバリーサービス「ウーバーイーツ」の活用強化です。17年6月から導入を開始し、20年7月には1000店舗以上で利用できるようになりました。
デジタル技術を活用して「家から外に出るストレス」「待ち時間のストレス」を解決した結果、「店舗で買って店舗で食べる」というビジネスモデルは結果として大きく変革され、それが市場に求められていたため、コロナ禍でも売上を向上させることができたということです。

5.DX化の障壁となるもの

DXに限らずですが、大きな変革を起こすには大きな障壁が立ちはだかります。
特に現代の日本社会でDXを推し進めていく難易度は、組織が大きければ大きいほど、古ければ古いほど増していきます。
本章ではDXにあたって企業がぶち当たる障壁について解説していきます。

 

デジタル領域におけるスキル・人材不足

DXを進める上で”最も”重要なスキルとは?と問われた際、あなたは何と回答しますか?
「エンジニアリングスキル」を思い浮かべた方は、まだDXとIT化を混同させているかもしれません。「マーケティングスキル」を思い浮かべた方は、顧客ニーズに直結したDX2.0を推し進められるでしょう。
DXしていく上でまず必要とされる人材は、競合、顧客、自社のポジションなど市場の状況を把握し、施策からデータを収集し、収集したデータからニーズを読み解き、市場から求められているビジネス形態を創造することができるマーケティング視点をもった人材です。

電通デジタル「日本企業のデジタルトランスフォーメーション調査2019年版」を見ると、DXの役割を担うリーダーとしてCIO(Chief Information officer)の役割が2018年→2019年で7ポイント減少、逆にCMO(Chief marketing officer)は4ポイント増加、CDO(Chief digital officer)の期待値は3ポイント増加していることが分かります。2019年の段階で情報システム責任者であるCIOが最も多くDXリーダーの役割を担っていることが、現在の日本におけるDXのフェーズを表していますが、同時にDX2.0(マーケティング視点)フェーズへの移行やCDOの浸透が進んでいることもこのグラフから読み解くことができます。
デジタル領域におけるスキル・人材不足を感じている企業は、CMOやCDOを担える人材をいち早く獲得し、長期的な事業戦略的な観点をもって「どこからDXを始めていくべきなのか」の絵を描いていくことから始めましょう。

 

経営陣のコミットメント

マッキンゼーが実施した2,135名の経営者へのインタビューの結果によると、DX推進の主な課題は経営者のコミットメントや理解度、企業の文化など、人・組織にまつわる要因が上位にあがってきています。これはDXがこれまでの IT化とは異なり、事業のコアやビジネスモデルそのものの変革であり、ヒト・モノ・カネのリソース配分の変更、そして実行に向けた経営者の強い覚悟がなければ変革はなし得えないということを意味しています。

 

3種類のDXモンスターと対処法

往々にして会社という組織の中には改革を恐れる「DXモンスター」が存在します。
改革派と保守派が分かれるという点で見ればこれもDXに限られた話ではありませんが、この章ではDXに対して反対意見をもつ層はどのような反対理由を持っているのか?
またその層に対してどのような対応を取っていけばいいのかをご紹介していきます。

1,アナログのままでも特に問題ない派

こと日本社会においては、未だにデジタルよりもアナログの方が融通が効くという場面が往々にして存在します。特別定額給付金の10万円を支給する際、マイナンバーが機能せず結局郵送で銀行口座や身分証のコピーなどを送付した方が早かったというのがいい例です。企業の経済活動においても同様で、「別にこのままでよくない?」という声があがることは大いに予想できます。このような層は「企業活動の全てをデジタルに!」と一元的な捉え方をしていることも多いため、あえて人が関与する箇所を残したり、具体的に何をデジタルに置き換えたらどのような理想の未来が実現できるのかを数値と共に明示することで味方になってくれるかもしれません。

2自身の権威を保持したい利己主義派

これは厄介です。特にある程度立場が上の(部長相当以上の)レイヤーに多く見られます。社外からCMOやCDOなどの有識者を招いてDXを推し進める場合、自身の権威や発言力に影響を及ぼすことに危機感を感じる場合があります。このような方を仲間に引き入れる際は、DXを推し進めることでその人にどのようなメリットがあるのか?を織り交ぜながら理想的な未来をやんわりと伝えていくと効果的です。DXを成功させるためには超上流のCMOやCDOの力だけでは当然不可能で、現場を指揮して取りまとめる部長、課長クラスの協力は必要不可欠となります。実際、DXの現場責任者としての指揮が執れればその方の市場価値は跳ね上がり、その後のキャリアアップは大いに見込めます。この進言はトップダウンで行うとより理想的です。

3システム連携に不安を感じる現実派

これはシステム開発部の方に多いタイプです。DXをしていくにはシステムの側面を刷新していくケースが多いため、システム管理者としては事前に予測できる懸念点は全て潰したいでしょうし、見えない部分があるのであれば反対するというのは職務として当然の流れかと思います。このような場合社内の人間が説得をすることは非常に難しいため、支援ベンダーとタッグを組んで、システム刷新に向けて発生するリスク、その他システムとの連携確認、サポート体制、などあらゆるデータの準備をしてシステム部署にプレゼンをする必要があります。またシステムがレガシー化している場合、常に触れているシステム部の方が一番DXの必要性を感じているという場合もありますので、「どうやったら一緒に社内を巻き込んでいけるか?」という姿勢で仲間に引き入れるとDXに向けて心強いパートナーになってくれるでしょう。

 

移行が困難なレガシーシステムの存在

「2025年の崖」の章で上述しましたが、2025年にはレガシーシステム(21年以上稼働しているシステム)の割合が全体の6割にまで上るといわれています。レガシーシステムの特徴として、ユーザー企業側にシステムのマネジメント技術がないため老朽化する、細かな他部署との連携などにより複雑化する、有識者の退職により内部構造が誰も分からないという状態に陥っている、しかし稼働さえしていれば大きな問題にはならないため、システムのマネジメントは常に後回しにされ続ける。という負のループを抱えています。これを新しいシステムに刷新することは企業にとっても支援ベンダーにとっても並大抵のことではなく、大きな企業だとシステム刷新に数百億という資金が必要となります。日本経済の根幹を支える大企業のDX化が遅れている最も大きな要因と言っても過言ではありません。この点については1人のスタッフがハンドリングするのはいささか困難かと思います。2021年秋に発足予定のデジタル庁が指揮していくことになるかと思いますので、デジタル庁からの発信と足並みを揃えられるよう情報収集をしていかれるとよいかと思います。

6.DXを成功させる重要ファクター

いよいよ、DXを成功させるための重要ファクターについてご紹介をしていきます。
なるべく客観的なデータに則り述べていきますのでご参考にしていただければ幸いです。

 

トップダウン型である

DXは「ボトムアップ型」ではなく「トップダウン型」で推し進めていく必要があります。もしこれを読んでくださっている方が一社員の方でDXの必要性を感じていらっしゃるのであれば、第1ステップとして社長もしくは役員レイヤーを味方につけてください。
下記のグラフ①を見ると経営トップがDXにコミットしている場合とそうでない場合の成果の有無が明らかかと思います。


赤:成果あり  青:成果なし
【電通デジタル】日本企業のデジタルトランスフォーメーション調査2019年

また下記グラフ②を見ると、DX推進組織の有無によっても成果の有無を伺うことができます。専門部署を作ることで「DXに本気で取り組んでいくぞ」ということが社内にも伝わりやすいため意識改革にも役立つという副次的なメリットもありますね。


これらを総合的に判断すると、「経営トップがDXにコミットメントし、DX推進専門組織を社内に確立し、専任の役職者にDX推進における権限を委譲する」ことがDXを成功させる重要なファクターになると言うことができるでしょう。この動きを取ることができるのは経営トップレイヤーです。加えて、企業全体をリードできるリーダーシップがDXには不可欠であるため、トップダウン型で推し進めることをオススメします。

 

DXの4Pを実践する

ビジネスにおける4Pというと、商品設計(product)→価格設計(price)→流通(place)→販促(promotion)のマーケティング戦略が頭に浮かぶかと思いますが、本章では、iu情報経営イノベーション専門職大学教授の江端氏が提唱しているDXにおける4Pをご紹介します。

1.課題(problem)
まずは課題の定義です。上記でDXは「想像」から全てが始まると申し上げましたが、マーケットが顕在的に、潜在的に抱えている課題は何なのか?を定義してください。

2.未来予測(prediction)
次に未来予測です。上記で定義した課題を解決した先の理想的な暮らしや働き方、ライフスタイルを予測します。江端氏曰く、現状のビジネスモデルで数年後に到達可能な目標でもダメ、非現実的な空想になってしまってもダメ、その間をうまくつけるようなprediction設計が鍵であるとのことです。

3.改善プロセス(process)
次に改善プロセスです。課題を解決できた理想の状態を描けたら、その中でDXで解決可能なプロセスとそうでないプロセスの与件整理をします。何から何まで闇雲にデジタルを使えばいいということではありません。

4.人の関与(people)
最後に人の関与です。DXをすることで影響のある全ての人にメリットがあるか否かを考察します。顧客満足度はあがるか?会社は成長するか?上司や自身は出世できるのか?システム部の仕事は楽になるか?など、DXは人に焦点の合った課題が多分に含まれているので注意が必要です。また、DXをしていくプロセスと人が関与すべきプロセスについても考察が必要となります。


(出展)マーケティング視点のDX

 

DX推進のリーダーを決める

専門組織の有無におけるDX成果の章で上述したように、DX推進においては専任のリーダーを配置することが重要なポイントになります。「組織」「モデル」「意識」を大きく変革していくにあたっては責任者の配置がなければ機能をしないからです。
では、DXを進めるためにはどのようなリーダーの存在が必要とされているのでしょうか?
以下、定性的に必要な素質をまとめていきます。

・巻き込み力
DXは経営トップ層から各部署(経営企画部、企画開発部、営業部、マーケティング部、システム部、経理部、etc)までをブレイクスルーした大規模改革です。そのため、このDXを成功させた先にどのような未来が待っているのか?なぜこの改革を推し進めたいのか?なぜ協力してほしいのか?を各部署に明示し、リーダーシップを持って全体を巻き込んでいく力が必要となります。

・自社事業ドメインの理解力
ビジネスモデルを市場に合わせて変革していく上で、自社のポジショニングやUSP、なぜ顧客に選ばれているのか?のみならず、企業文化や社員の定性面まで、深く会社のことを理解している人材がDXリーダーにおいては最も理想的です。CDOやCMOを社外からアサインする場合、実績やノウハウがあれば結果を出してくれるというわけではなく、業界に対しての深い理解、机上の数値だけではなく現場の想いに共感できるか否か、また会社独自の企業文化とその方の定性面や想いがマッチしているか、なぜそのCDO(CMO)でなくてはいけないのか?まで入念にチェックした上で選定する必要があります。

・マーケティング力
DXは市場ニーズの変化に応じて企業のモデルを変革していくため、顧客や競合に対して深いインサイトを持ち、市場ニーズの汲み取りから適切なモデル構築ができるマーケティングスキルが必要不可欠になります。インターネットが隆盛した90年代から現在にかけて、日本のマーケティング領域に根付いてこなかった文化になるので、このスキルを保持している人材は相当稀有になります。しかし、常日頃から市場に対して思考とPDCAを怠らず、真正面から顧客と向き合っているマーケターであれば、デジタル技術を通じて解決できる課題を思い描くことはできるはずなので、周囲にCMOやCDOを担える人材を見つけることが難しい場合は、社内外のマーケターをうまく活用することがオススメです。

・デジタル・ITの知見
市場に合わせてビジネスモデルをDXしていくため、デジタルの知見は必要不可欠です。しかし、アプリケーションやその他システムの開発スキル等に関してはCIOや外部と連携を取りチームで一つのモデルを作っていくことも可能ですので、絶対要件ではありません。あくまで、事業のどこをデジタル化することができるのか、すべきなのか、ということが適格に判断でき、周囲を巻き込んでいける能力がDXにおいては重要な要素になってきます。

・経営力
DXと経営は密接に繋がってくるポイントです。事業インパクトを見越したリソース配分、財務調整や組織構築などを加味した経営力が問われます。近年、マーケティングが広報や販促プロモーションに寄ってしまい、マーケティング×経営の連携が希薄化している点が企業課題としてあがります。モデルチェンジや新規事業開発のタイミングのみならず、経営トップ層はマーケットの動向に順応した経営判断ができるようにしておきましょう。またDXにおいてはマーケターにも経営視点が求められるため、有限のリソースを活用して自社をどのようにDXしていく余地があるのか、思考を繰り返すことが大切です。

 

ゴールを定める

最後に、DXはゴールを定めることが重要です。マーケティングの4PでもPrediction(未来予測)というフェーズがありますが、この改革はどこを目指してやっているのか?が明確になっていない場合、とりあえず今の形態をデジタルに置き換えて終わり(DX1.0)となる傾向が非常に高いです。しかし、DXに終わりはありません。設定したゴールが達成できればまた違うゴールを設定し、市場ニーズに合わせて変革し続ける必要があります。

7.DXの成功事例

DXを実現させる重要なファクターとして先行企業を視察し、可能であれば責任者とディスカッションすることが非常に重要です。DXによって成果をあげてきた企業が、どのようにDXを行い、どのように成果をあげ、どのような課題を乗り越えてきたのかを学ぶことができるからです。
以下、DXの成功事例をご紹介いたします。下記事例はiu情報経営イノベーション専門職大学教授の江端氏が執筆した『マーケティング視点のDX』を参考としています。

 

FENDER

ギターで有名なフェンダー社です。1946年創業以降業界トップを走ってきたフェンダー社ですが、2000年頃から米国のギター市場は縮小を続け業績は傾き始めました。

■課題
ターゲット像としていたのはステージでバリバリ演奏するバンドマンでした。しかし2000年以降、ジャズやその他音楽文化の隆盛によりロックバンドへの憧れを持つユーザーは減少していくこととなります。そこで、データドリブンなマーケティング手法を取り入れたところ、以下のようなデータが取れました。
・購入者の半分は女性
・購入者の半分が初心者
・初心者の9割が半年以内にギターをやめる
・初心者はギター代の4倍をレッスン料に充てる
・ステージで演奏したい層は購入者全体の6%
フェンダーのギターを購入する顧客の大半はバリバリのバンドマンを目指す人ではなく、趣味や自己実現にギターを活用する層だということが判明したのです。

■ポイント
フェンダー社はいかのような対策を打ちました。
・女性向けのモデルを開発
⇔ターゲットニーズに順応
・オンライン販売の促進
⇔中年男性がバリバリ試走している店舗への入りづらさを解消
・サブスクモデルのオンラインレッスンを開講
⇔ギター離れの予防
・レッスン受講者に対しギター本体代の割引
⇔レッスンの導入促進
これらのDX施策を通じてフェンダー社は業績を回復させることとなります。

ウォルマート

ウォルマートはアメリカを代表する大手スーパーマーケットのチェーン店です。AmazonなどECサイトでの買い物が一般的になり、客足が遠のくこととなりました。2015年、ついにAmazonの時価総額がウォルマートを抜きましたが、ウォルマートはここからDXに本格的に取り組み、めきめきと業績を伸ばしていきます。

■課題
ECサイトでの買い物と比べると、店舗での買い物は以下のように様々な負担がかかります。
・行き来しなければならない
・商品を手に持って帰らなければならない
・欲しかった品物が欠品になっている可能性がある
ECサイトでの買い物が消費者に広く受け入れられた背景にはこのような課題を一掃することができるという点があります。

■ポイント
ウォルマートは以下のような対策を打ちました。
・オンラインで注文したものをドライブスルーで受け取れる仕組み作り
⇔商品を選んだりレジで並ぶ時間の短縮
・店舗で欠品のものは店内でオンライン注文をして自宅に配送するシステム
⇔取り寄せて再度店舗に赴く手間を削減
ウォルマートは「消費者がウォルマートに合わせるのではなく、ウォルマートが消費者に合わせること」を目指し、16年からDXに取り組んできました。時間と手間の削減はDXの得意とするところであり、市場ニーズに合わせて事業モデルを変革したDX2.0のいい例だと言えます。

ジモティー

ジモティーは創業時よりデジタルを活用した地域支援をしている企業で、「地域に存在する情報を隅々までいきわたらせること」をモットーにC2C(Consumer to Consumer)のビジネスモデルを創出し、主に地元に特化した中古品売買においてシェアを伸ばしました。

■課題
中古品販売は古着屋や中古車屋、総合リサイクルショップなど店舗を通じて取引をされることが多いですが、そこにDXを通じて風穴をあけた一例としてジモティが挙げられます。店舗型の課題として、
・わざわざ売りに行くまでもないが必要ないものが家の中にある
・使い込んでいてい店舗では買取をしてくれないものがある
・購入する場合、店舗に中抜きされるため中古品にしては高い
というような課題があります。

■ポイント
ジモティーはいかのようなモデル構築を通し課題解決に臨みました。
・掲示板に品物を挙げて買い手が見つかり次第取引開始
⇔「売りに行くまでもないが売りたい」という不用品を気軽に出品できる
・どんな商品でも出品可能
⇔ただ処分したいだけの人は0円で譲るケースも多数
・設定価格も自由に取り決められる
⇔消費者間取引なので自由
ジモティーでは今やスポーツがしたい人の集団形成やバイトの求人、不動産の売買まで、地元に特化したあらゆる課題解決をデジタルによって可能にしています。

8.まとめ

DXは、単なるIT化ではなくデジタルを通じて新しい価値を創造できるモデルに組織を変革していくことを指します。

2018年頃からDXが叫ばれるようになり、今では様々な成功事例やDXまでのプロセスが情報として入手できるようになりました。しかし、大枠に嵌めればそれでよしというものではありません。成功事例のモデルに飛びつくのではなく、一つ一つの成功要因を洗い出し、「モデル」ではなく「成功要因」を横展開するように心がけることが必要です。

アメリカの成功事例などを見ると華やかですが、スタート地点や各ポイントで粒度を上げて見てみると、一つ一つの施策工程は全て顧客理解に紐づいていることが分かります。マーケティングの基本は顧客理解、「DXだからIT化!」ではなく、徹底的に顧客ニーズに企業モデルを合わせていくということを意識しましょう。

そうすれば顧客はあなたの方に振り向いてくれ、DXによってより良い関係を築いていけることでしょう。

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