ブランディングを成功させて企業価値を高める

ブランディングを成功させて企業価値を高める

ブランディングは、企業のマーケティング活動において欠かせない戦略です。ブランディングは目的によって対象となる範囲が広く、捉え方も様々です。この記事では、ブランディングを成功に導くための要素をブランディングの種類やメリット、ブランディングを行う際の手順を交えて紹介します。

ブランディングとは

ブランディングとは、自社独自の価値を創造し、自社を取り巻くステークホルダーのロイヤリティや共感を最大限に高める活動のことです。 時代や市場、顧客のニーズを捉えながら、企業理念やビジョン、差別化を打ち出す商品・サービスづくり、自社の価値を表現するデザインといった要素を通じて自社独自の価値を社内外に伝えていきます。

ブランディングの種類

ブランディングは目的によって、様々な種類が存在します。ブランディングの種類についてご紹介します。

・コーポレートブランディング

企業理念やビジョンを軸にした企業自体のブランディングです。すべてのブランディングの起点となるのがこのコーポレートブランディングです。近年は、環境や社会貢献、リスクマネジメントいったCSRや働き方改革など顧客や社会を重要視した姿勢を企業の評価として捉えられる時代のため、企業イメージをよくする取り組みやブランド構築をする企業が多く見受けられます。

・事業ブランディング

企業内の事業ごとに行うブランディングです。特定の事業の提供価値を向上させることが目的です。既存事業の見直しや新規事業の開発など各事業ごとに独自のミッションを持っている場合に行われ、企業理念やビジョンやコンセプトを活かしつつ、事業単位で独自の価値提供を目指します。

・商品・サービスブランディング

商品・サービスを対象に行うブランディングです。商品・サービスのもつ独自の価値や顧客体験を創造し、競合他社との差別化を図ることが目的です。販促方法、情報発信などそれぞれの活動における施策を考えます。どの企業も商品・サービスの機能や品質の向上に取り組んでいる現代において、機能や品質に差がなくなっている現状があります。結果、品質が良くなっているにもかかわらず、他社よりも値下げしないと売れない状態に陥ります。そのため、ブランディングができていないと「価格競争」に巻き込まれる可能性が高くなります。

・インナーブランディング

自社の従業員に向けたブランディングです。企業理念の浸透や文化醸成を活性化させ、自発的な行動を促すことが目的です。市場の変化に伴う企業理念やビジョンの見直しや社名変更、グループ会社を横断した共通価値とビジョンづくりの際など企業の転換期に行われることが多く見受けられます。

・採用ブランディング

採用活動において自社のブランド力を高め、企業成長に欠かせない人材の採用を行うためのブランディングです。採用説明会やインターンシップ、求人サイトの掲載など採用活動におけるさまざまな場で、自社の理念やビジョン、文化など一貫した情報発信をすることが大切です。自社に共感した人材が自社に興味を持つことで、自社が求める人物を獲得しやすくすることにつながり、全体の応募“数”の増加も見込めることはもちろん、母集団の“質”を向上させる効果が期待できます。

このような多様なブランディング領域の中で、起点なるのがコーポレートブランディングです。コーポレートブランディングは、企業ブランドの全体構築を意味しています。顧客・取引先や株主・投資家、従業員といったすべてのステークホルダーに関わっており、企業経営に大きな影響を与えます。そのため、商品・サービスブランディング単体で改善を考えていている企業があれば、まずはコーポレートブランディングから着手することをおすすめします。

ブランドを構成する要素

ブランディングを考える際、企業理念やロゴの刷新など外見を変えるイメージがあるかもしれませんが、それはブランド構築の中の一部にすぎません。市場の競争や変化、顧客の価値観の多様性からよりマーケットイン視点を取り入れたブランディングが重要視されています。マーケットインを意識したブランディングにおいて、以下の4要素を一つひとつクリアにしながらブランディング戦略を考える必要があります。

CI(コーポレートアイデンティティ)/企業戦略

企業理念や企業の文化、社員の行動、ビジュアル化したロゴやデザインを一貫した状態で社内外に発信し、企業価値を高めることを指します。コーポレートアイデンティティは「MI(マインドアイデンティティ)」「BI(ビヘイビアアイデンティティ)」「VI(ビジュアルアイデンティティ)」の3つの要素で成り立っています。

MI(マインドアイデンティティ)/企業理念・ビジョン

企業理念やビジョンなど企業が目指すべき姿や考えを定義することを指します。すべての企業活動において意思決定の軸となります。マインドアイデンティティは「ミッション(果たすべき使命)」「ビジョン(実現したい未来)」「バリュー(社会に提供したい価値)」「スピリット(大切にすべき精神)」「スローガン(合い言葉)」の要素から構成されます。

BI(ビヘイビアアイデンティティ)/社員の行動・顧客とのコミュニケーション

社員の行動や顧客とのコミュニケーションの取り方などを指します。たとえば、営業であれば顧客に対する挨拶や商談の際のセールストーク、人事で言えば求職者の方とのコミュニケーションなど、企業理念と一貫性があるかが重要です。

VI(ビジュアルアイデンティティ)/視覚的表現

ロゴやブランドカラーなど企業のブランドイメージを視覚的表現として浸透させることを指します。Webサイトや名刺、パフレットなど統一したデザインにすることにより、一目で企業や商品・サービスを想像、認識できる効果があります。

ブランディングがもたらすメリット

・価格競争に巻き込まれなくなる

ブランディングを成功させ、価格以外の価値を見出すことができれば、顧客は自社の商品・サービスを価格以外の視点で選んでくれるようになり、競合他社との価格競争の脱却につながります。そのため、競合を意識した値下げをする必要がなくなり安定した収益を見込めます。たとえば、Appleやダイソンの製品は比較的高価格な設定にもかかわらず、コアなファンがついています。そのため、ほとんど値下げをすることはありません。これは、機能性やデザイン性といった顧客体験の差別化により、顧客のロイヤリティが高い状況が続いているからです。

・プロモーション費の削減

ブランド確立までにはマス広告やWeb広告の出稿などプロモーション費が必要となりますが、ブランドのファンが定着し、リピート顧客が増えると、SNSなどで自然に広告塔として活動をしてくれるようになります。最小限の宣伝でユーザーが商品を購入してくれるようになり、プロモーション費を多く投下しなくとも商品・サービスが売れる仕組みが構築されます。

・リピート顧客の増加

ブランド価値を明確にし情報発信を続けることで、顧客がそのブランド価値に共感し、愛着を持つようになります。そして自社の商品・サービスを継続して購入、利用してくれる顧客ロイヤリティの高まりにつながっていきます。ロイヤリティの高い顧客がSNSや口コミで自然と周囲に商品・サービスの良さを広めてくれることでブランド認知の拡大や新たな顧客獲得など良い循環が生まれます。

・採用にも好影響を与える

企業が一貫した理念や魅力を求職者に伝えることにより、企業のイメージが向上できれば、待遇や企業認知度に関わらず、他社との差別化が可能になります。より企業が求める採用ターゲットに近い「質の高い応募者」を獲得し、優秀な人材を確保することにつながります。自社の理念や文化をすでに理解したうえで入社することができるので、教育もスムーズに行えます。

・社員のモチベーション向上につながる

社員の満足度(ES)を追求し、やりがいをもって働いてもらうための取り組みを始める企業も増えてきました。社員がやりがいを持って働くためには、自社や自社商品・サービスへの愛着(エンゲージメント)が必要です。ブランディングにより企業価値を向上させることができれば、社会からの評価が高まり、自社に誇りを持つようになります。これにより、自社への愛情が強くなるだけでなく、会社の生産性向上へとつながる好循環を生み出していきます。

関連用語との違い

リブランディング

リブランディングは、これまで培ってきたブランドを建て直すブランド戦略です。企業活動を長く続けていくと、時代の移り変わりや顧客の価値観、ニーズの変化によって企業やブランドに求められるものも変わっていきます。これらの変化に対応した戦略であり手段がリブランディングです。リブランディングにおいて最も重要なのはリブランディングの検討に至った理由や課題を徹底的に洗い出すことです。ブランドは、自社を取り巻く外的要因によって「変わらない顧客へ提供すべき価値=つまりは約束」をしっかりと定義しなければなりません。しかし、同時に、時代の変化や顧客のニーズに適応しながら柔軟に変化をすることも必要です。また、リブランディングにおいては、売上の不調などネガティブな理由から行うものとして捉えられることが見受けられますが、望ましいタイミングは「ブランドが好調に成長しているとき」です。売上が減少し、ブランドが衰退する前に未来を創造しながら新しい取り組みに挑戦するということもリブランディングを行う動機として有効です。先々を見据えたブランドの未来像を導き出すことが、顧客とのコミュニケーション戦略にブレがないブランドを創りだします。

デ・ブランディング

デ・ブランディングはあえてブランド名を使わないブランド戦略のことです。ブランド名を前面に出さず、ロゴやシンボルマークでマーケティングを行います。企業やブランドが持っているイメージを消すことで新しいイメージや立ち位置を築くことができます。代表例としては、スターバックスとナイキが有名です。両社は自社のロゴからブランド名を取り除き、ロゴマークだけを残した戦略でデ・ブランディングを実行しています。デ・ブランディング戦略を実行する場合の注意点としては、世間に認知度が高い企業やブランドでなければ、あまり大きな効果は期待できないという点です。そのため、認知が浸透していない企業においてはまず認知度を向上させる施策に取り組みましょう。

ブランディングの流れ

1.環境分析

まずは自社と自社を取り巻く現状の調査をします。3C分析・PEST分析・SWOT分析といったフレームワークを用いて、ブランドの方向性を決めます。自社の強みや弱み、市場・顧客のニーズ発掘、競合との差異から参入する市場やターゲットとする顧客を定めていきます。環境分析はその後のマーケティング戦略にも影響を及ぼすので、慎重に進めていきましょう。

2.ブランドアイデンティティの設定

分析結果をもとに、ブランドの目指す方向性(ブランドアイデンティティ)を決定します。ブランドアイデンティティは、目指したい未来像やどのような価値を提供したいかを考えることで決まってきます。環境分析から導き出したターゲットにどのような商品・サービスを提供し、どのような顧客体験を創りだすことができるのかを明確にします。
ブランドアイデンティティは、その事業が実現する目的や価値を言語化したものです。ブランドを提供するにあたり、コンセプトをしっかり持つことでブランドの世界観にブレが生じないようにするために必要な要素です。そのブランドが持つ価値がどのようなものなのか、独自性のある言葉で他社との違いを明確にできるものであること、そして市場や顧客のニーズに応えられるものであることが大切です。

3.ブランド名・ロゴのプランニング

ブランドアイデンティティで決めた言葉をターゲットとする顧客が認識できるブランド名やキャッチコピー、ロゴデザインといった視覚的表現に落とし込みます。ブランド名は、ありふれた名前にならないようにします。ブランドのシンボルとなるロゴマークは、そのブランドが持つ価値や開発したストーリー、コンセプトと合致しているかがポイントになります。

4.アウターブランディングの設計

クリエイティブの作成をしたら、次はブランドをどう発信していくかを決定します。これまで考えたブランドアイデンティティやそれを具現化したブランド名やロゴデザインをもとに、どのようにして世の中にブランドを発信していくかを考えます。Webサイトの他、オウンドメディアやSNS、Web広告など情報届けたいターゲット層にマッチしたメディアの選定をします。運用にあたり社内に技術やリソースがない場合は、広告代理店などパートナー企業に協力を仰ぎましょう。
アウターブランディングでは、メディアの力以外に従業員の意識付けも重要です。営業や店舗の販売スタッフなど日常的に顧客と直接関わる機会があるフロントの職種であり、企業やブランドの顔となります。顧客と接する従業員の態度や印象次第で、ブランドイメージも左右されます。そのため、ブランディングにあたっては、従業員の教育や行動にも一貫性を持たせることが大切です。

5.ブランドの運用・検証

プランニングが完了したらブランドの運用を開始します。メディアでの顧客接点やプロモーション施策が一定期間経過した時点で検証し、結果に応じて改善や戦略の見直しを行っていきます。市場の変化は常に起きているため、なるべく速くPDCAをまわし、戦略をアップデートしていくことが大切です。

間違ったブランディングの捉え方

ブランディングでは、数字として開示されている株価や利益などの財務情報以外にコーポレートアイデンティティの価値を高めることができます。そして、数字では見えにくい企業価値は競争で優位に立ち、事業を成長させる大きな差別化要素となり、企業の資産となっていきます。ブランディングが定着するまでには時間を要するため、PDCAを繰り返しながら中長期的な視点で取り組むべきですが、短期的な視点でブランディングを行い失敗する例もあります。たとえば、売上の鈍化やブランドイメージの低下をリブランディングに頼り解決しようとする企業や、予算が余っているという理由だけで、リブランディングを検討する企業も少なくはありません。しかし、業績が下がっている原因の多くが、その商品自体に問題があるか、顧客とのコミュニケーション設計に懸念点があるというのが現状です。商品・サービスの問題をリブランディングを用いて解決しようとするのではなく、商品・サービスが抱える根本的な問題を分析し、ユーザー体験の改善を進めることが大切です。
また、属人的なブランディングにも注意が必要です。たとえば、企業の代表が世間的に有名な場合に、企業のイメージがその人に左右されてしまうケースがあげられます。もしも代表者に不祥事が発覚した場合、ブランドイメージにも傷がつきます。人のキャラクター要素が強いブランディングよりも、商品・サービスの優位性やユーザー体験を充実させ、ブランドイメージの構築を進めていきましょう。

まとめ

ブランディングには良い影響をもたらす一方で、効果を実感できるまでには時間がかかります。根気よく自社と向き合い、正しい手順をもってブランディングを進めることが重要です。継続的な顧客コミュニケーションを取ることや、PDCAを繰り返し行い、戦略をアップデートしていくことで企業価値の向上につながっていきます。ブランディングが上手くできていると、市場の変化が激しい現代社会においても、選ばれる企業、選ばれる商品・サービスを確立することができ、長期的に成長を続けることができるのではないでしょうか。

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